2009年12月アーカイブ

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<デンマーク出身の写真家ヨアキム・エスキルセンが妻で作家のツィア・リンネとともに、ロマの人々の暮らしを記録しようとハンガリー行きを決心したのが9年前。ここでの4ヶ月間の滞在が7年に及ぶ長いプロジェクトの始まりとなった。ロマの人々のことについて知れば知るほど彼らのことが気に入り興味も深まった。そして、その後インド、ギリシア、ルーマニア、フランス、ロシア、フィンランドと撮影の旅を続け、2008年に写真集を出版した。時に何ヶ月もロマの人々と生活をともにしたが、プライバシーが全く無く気が狂いそうになったこともあるそうだ。町のはずれで、通りで、そして森の中で、ゴミ捨て場で、小屋やテントの中で、エスキルセンが写真を撮り、リンネが文章を書いた。写真集はヨーロッパでいくつかの賞を受賞。写真展が今もドイツで開かれるなど反響を呼んでいる先月11月ドイツ・シュピーゲル紙オンライン版が、この写真展に触れてエスキルセン氏のインタビューを掲載している。「写真を見ると、従来イメージされているいわゆるジプシーの生活を伝えているものが多いが・・・」という記者の問いに対し、写真家は次のように答えている。「私の写真が、今世の中に流布するロマに対する固定した考えを取り除き、より細部を写し取った写真を提供することに役立てればうれしい。私の写真には、民族差別やその他様々な困難にもかかわらず生きることの喜びに満ちた人々が映っています。ぼろぼろの服を着て腕にぐずる赤ん坊を抱えていたとしても、被害者として描かれているのではないという事実への彼らの誇りが感じられます。彼らはまるで王様や女王様のように(堂々と)カメラを見つめています。たとえ、もっともみすぼらしい背景を前に立っているとしても、です。」(エスキルセン氏のウェブサイトでは写真集に掲載されている写真を一部見ることができる。現在ドイツでは14000人(そのうち10000人がロマ人)のコソボ難民の送還が議論を呼んでいる。独立を果たして平和な状態にあるコソボ地域に自発的な帰還を推奨する国連に対して、ドイツ政府はコソボ当局と協定を結び強制的に送還することを計画しているという。ドイツで生まれ育った子供たちはコソボ地域の言語であるアルバニア語が話せない上に、ロマの人々には雇用もない。このような状態で帰還させることは新たな緊張を生むとの懸念が広がっている。(市橋雄二)

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「さらば、わが愛/覇王別姫」

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久しぶりに「さらば、わが愛/覇王別記」を見る機会があった。10数年前に見たときには中国の古典芸能の奥深さや京劇の世界に圧倒されたのを覚えている。
日中戦争、文化大革命の激動期に生きた京劇俳優の程蝶衣(張国栄―レスリー・チャン)と段小楼(張豊毅―チャン・フォンイー)の物語である。女形の程蝶衣は段小楼に同性愛的な愛情を抱き、そのふたりの関係を主軸に物語りが進行する。 2人は「覇王別姫」の役者として成功するが、彼らの人生も互いの愛憎を交えつつ日中戦争、文化大革命などの巨大な波に覆われる。
歴史と人間の運命という大きなテーマにまともに向かい合う中国映画の底力に改めて感服するが3時間に及ぶ長さを全く感じさせない演出力(監督:陳凱歌)も尋常ではない。 子供時代の訓練風景が興味深い。徹底的で不条理な体罰訓練で芸を体にしみこませる過程がかなり念入りに描かれる。芸能の肉体化とでもいうのか。これが中国雑技団にまでも伝わる伝統かと思わせるほどだ。 そして京劇俳優、なかでも女形に焦点を当てたところが新鮮だ。女形役者が性差のはざまを行き来しながら、実像と虚像の落差に翻弄される様をレスリー・チャンがもののみごとに演じている。
現実世界では2003年に自死したレスリー・チャンの人生が重なるようだ。彼なくしてはありえなかった映画だろう。
 この映画のもうひとつの見所は全編に漂う脂粉の香りだ。普通の人間が入れない役者の楽屋に漂う隠微で、酔わせる香りがなんとも悩ましく魅力的だ。女形役者が発する気配は現実世界がいかに厳しくとも観客を一時至福の世界(ハレの世界)へと誘ってくれる媚薬なのだろう。中国現代史の一面が醜悪で苛酷であればあるほど、そこに咲いた花は美しいのだ。 
今回改めて興味深かったことは中国社会においても芸能の血筋にたいしてひとびとが抱く畏敬と蔑視の2重性がよく分かったことだった。古典芸能としての京劇が、日本の歌舞伎と同様、大道芸から育ってきたことをよく実感させてくれた。 「さらば、わが愛/覇王別記」は張芸謀の「紅いコーリャン」と並んで私の中では中国映画の古典である。

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