2010年11月アーカイブ

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3年ぶりの最新アルバム「真夜中の動物園」リリースを機に行われている中島みゆきのコンサートに久しぶりに行った。「夜会」シリーズの初期の数回を見て以来だから、ほぼ20年ぶりの生ステージだ。この間、彼女のCDはほぼすべて聞いてきたが、やはり生の舞台でみる中島みゆきはすばらしい。
選曲もよかった。最新アルバム「真夜中の動物園」から4曲、そして「二隻の舟」「しあわせ芝居」「nobody is right」「時代」「悪女」「たかが愛」などを交えて全部で17曲。
 特に「二隻の舟」「時代」は名曲の誉れ高いが、実際に生で目にする機会は滅多にないと思われたので望外の幸せだった。特に「二隻の舟」は「夜会」のステージで初めて聞いて以来、CDで聞くたびに、あのドラマチックな表現に感嘆し続けてきただけに感無量だった。
 すべての曲に満足したのだが、この夜の最大の聞きどころは新曲「鷹の歌」(「真夜中の動物園」に収録)だったのではないか。
 「あなたは杖をついて ゆっくりと歩いてきた 見てはいけないようで 私の視線はたじろいた・・・・」とただならぬ気配の詞章からはじまり、鷹と呼ばれていた人のまなざしに勇気、永遠、道程そして希望を見いだすという内容だ。
中島みゆき独特の抽象と具体、夢と現実の間を自在に行き来しながら劇的高揚感のなかに「生きること」の意味を問い続ける姿勢を打ち出した表現世界である。新たな名曲の誕生であろう。
中島みゆきは今や単なる歌手という存在を遥かに越えた地平にいるような気がする。その詩(詞)の文学性・革新性、微妙な繊細さと爆発的な激情を自在に駆使する歌唱力、舞台での演技力等々・・・その訴求力の強さから考えても現代日本のシャーマンのような存在ではないかと思ったりするのだ。何故か「女王 卑弥呼」を連想する。
 ラストは「時代」で締め、 アンコールは「悪女」、「たかが愛」(「パラダイス・カフェ」より)という構成。ほぼ満足したコンサートだったが、「歌姫」を聞ければ・・・ということは贅沢というものだろう。 11月25日 東京国際フォーラム ホールA。
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トルコに関する濃密な情報がぎっしり詰まったトルコ東部辺境のフィールドワーク紀行であるとともに心豊かなトルコの少数民族の人びとの苛酷な人生が語られ、それに寄り添う日本人言語学者との交流の記録でもある。
著者は並外れたスケールの持ち主の、在仏が長い日本人言語学者である。小島剛一という名をはじめて知った浅学を恥じるのみである。1970年以来、トルコにのめりこむように、一貫してトルコの言語事情、民族問題とりわけ少数民族の言語研究にまい進してきた学者であるが、その過激なまでの行動力と情熱は学者の枠を遥かに超えている。ゴムぞうり履きでヒマラヤのトレッキングで6000メートル近辺まで登る体力の持ち主でもある。
フランスに長年住むうちに身に付けたねばり強さ、たとえ強大な国家を敵に廻しても真実を伝えることを諦めない芯の強さで外交部、内務諜報機関などトルコの権力機構とわたりあう。保守的な旧弊から抜けていないトルコの言語学に絶望しながらも論戦を挑むことを止めない。
  いっぽうで苛酷な歴史を生きてきた弱小の少数民族のひとびとには限りない優しさと共感をよせ、少数民族言語の辞典を編纂し、ラズの民謡を採譜する。ラズ人の民謡集が完成すれば、トルコ東部を巡りながら、一冊一冊村人へ自ら届ける律儀な人間味の持ち主でもある。
この本で特に参考になったこと。一つはクルド民族問題の本質がはじめて明らかになったこと。(少なくとも私にとって)かつてクルド人監督ユルマズ・ギュネイの「路」「群れ」などを見て、衝撃を受けた以来、意識的にクルド問題には関心をもってきたが、この本での言語学的な分析によりクルディスタン運動の将来まで見通せてしまうのである.。
 そして白眉は、相当な数になる少数民族の言語研究にまつわる話、事件のおもしろさである。東部の辺境の村々を訪ねて歩きながら、村人たちと交わす会話がとても生き生きとしていておもしろい。トルコ語のみならずいくつかの少数民族の言葉まで自由に駆使する日本人に出会う村人たちの驚愕の様子から、自分たちが味わってきた困難辛苦を語れることに涙する村人たちの境遇の苛酷さまで、一気に読ませる。
 トルコ政府の建前は「少数民族は存在しない。存在するのはトルコ人だけ。よって民族問題は存在しない。」ということ。こうしたトルコ政府の硬直した姿勢から生まれる少数民族への抑圧政策を著者はあらゆる機会を捉えて果敢に弾劾し続ける。
 己の思想的根拠の座標軸を「それぞれの民族は自由に己の言葉に誇りをもちながら話せる」ということに価値におくことで、そこから外れるものには、国家であれ、権威であれ、政治家であれ批判を止めない姿勢なのだ。こうしたことは日本人には理解しがたい事情だが、地球上には「民族と言語」の問題はその民族の存続をかけてまで、闘争するほど重大な問題なのだ。多民族国家は多い。
 著者が言語調査から導いた現状分析をトルコの役人たちに繰り返し説明する場面は、いかにこうした官僚機構に勤める人々を改心させることが困難かを実感させる。 専門性の高い少数民族の言語調査という行動が、いつしか少数民族の村の人々との長く、熱い交流になっていくドキュメントでもある。
   そしてトルコの諜報機関をはじめとする暗い組織との、手に汗にぎる心理戦が、サスペンス小説の様相をも帯びてくる。学者が陥りがちな言語研究の自己目的化に陥らずに、視座が常に少数民族の心に寄り添っているのが好ましい。
   ラスト。2度目の強制出国処分・国外追放でイスタンブール空港で出国を見張る少数民族出身の警察官との出会いから、彼らの著者にたいする呼び方が「お前」から「閣下」と変化する様子が感動的である。
 言語、民族、トルコに関心がない人でも一読すれば、止められなくなるような面白さに満ちた著である。
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2000年に中国人作家としてはじめてノーベル文学賞を受賞したフランス国籍の作家、高行健(ガオ・シンヂェン)の代表作である。1940年江西省に生まれ、1970年から小説を発表しその才能を注目される。
『霊山』の執筆を開始したのは1982年。翌年、北京人民芸術劇院が上演した彼の劇作『バス停』が当局の「精神汚染排除キャンペーン」によりモダニズムに汚染されているとして激しく批判される。これによって作品発表の場と自由を失った高行健は発表の当てのないままに、長江流域への取材旅行に出かける。北京人民芸術院の劇作家としての仕事を捨て、家族と離れザック背負っての一人旅だった。1983年から84年にかけて3回、おそらく2万キロを越える旅程だった。
完成したのは1989年、出国後のパリにおいてであった。ノーベル文学賞は『霊山』を中心とする文学活動にたいして与えられた。
『霊山』は小説ではあるが、きわめて破格の形式を取った異色の書である。まず作者の分身である「私」と「おまえ」という人称が章ごとに入れ替わる手法に面食らうが、かまわず読み進めるうちに自然に高行健の世界に引き入れられていく。都会の作家生活に疲れ果て、肺癌宣告と誤診の経験で死を身近に感じ、自己探求の一人旅に出かける。中国西南部のチャン族、イ族、ミャオ族などの少数民族の居住する辺境の奥地や長江流域を中心に、そこで遭遇する人びとの話や耳にする伝承などを求めてあてのない彷徨の旅を続けていく。
全編が独白、対話、回想で叙述され、前後のストーリー性への脈絡はあまりない。 伝わる風俗習慣、民謡への興味、ダム建設などへの強い抗議、神話伝説への愛着、死後の世界への関心、仏教への関心、道教をめぐる関心、少数民族のシャーマニズム信仰などなどが織り交ぜられながら一人旅が続く。
  「究極の独白形式による徹底的な自己解剖の書」(本著翻訳者 飯塚 容の解説より)であり、高行健(ガオ・シンヂェン)の「独りごとは文学の原点」との信念が色濃く反映された作品である。
多様性がこの小説の魅力であり、現実と空想を行き来する奔放さ、自由な飛躍そして死者の世界へ広がるシュールな展開がおもしろい。叙事詩的な文体から自由闊達な男女の会話など文体の多様性が意識的に組み合わされている。
常識的なスタイルの小説とは大きくかけ離れる形式を意識してか、作品中で批評家を登場させ、「東洋にこんなでたらめなものはない。旅行記、伝聞、感想、筆記、小品、理論は言いがたい議論、寓言らしくない寓言、民謡の再録、それに神話とは程遠い粗雑な作り話が入り乱れている。これでも小説なのか」と自作をこき下ろしてみせる。 高行健は複眼的で抑制を効かせた視座にこだわり続ける。
 中国独特の深刻な政治をめぐる事件や因習にまつわる因縁話などが多いが、洗練された文体の故か、全体に乾いた印象を受ける読後感であった。
個人的には四川省の山奥、長江支流の岷江流域に居住するチャン族の神話語りの古老、貴州省のイ族のシャーマン、ピモの儀式、ミャオ族の芦生舞などが、その風土とともに懐かしく思い出され、漢民族である高行健が彼らの神話性を帯びた習俗に魅了され、文学的衝動に駆られたことが、よく理解できた。
1989年6月4日、出国後の中国で起こった「天安門事件」を契機に中国との決別を宣言。帰国の道は閉ざされている。1997年フランス国籍取得。

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