2011年12月アーカイブ

トップページへ
カミソリの切れ味ではなく、鉈で大魚をさばくごとく、ざっくりと袋小路にある日本列島の今を鮮やかに浮かび上がらせた異色作である。地方の苦悩を描くことで日本全体の矛盾を逆照射している。「サウダーヂ」とは郷愁、情景、憧れ、そして、追い求めても叶わぬものを意味するポルトガル語だという。
舞台は不況と空洞化に悩む地方都市、甲府。この町に暮らすどん底景気に翻弄される土木建築業の人びと、日系ブラジル人,タイ人などのアジア人が中心の移民労働者――彼らが本音丸出しで、ぶつありあい、追い詰められながら苛烈な日本列島で生きていく様を描いた群像劇だ。
話は2人の男を中心に進むが、とりたてて起伏あるストーリーがあるわけでもなく、街自体が主役のような映画であり、生きているかのような街の表情や工事現場が乾いた抒情を生んでいる。 "派遣"で土方として働き始める猛はHIPHOPグループ「アーミービレッジ」のメンバー。両親は自己破産しパチンコに逃避、弟は精神に異常をきたしている。多くの移民達が働く建設現場。土方ひとすじに生きて来た精司は妻がありながら、タイ人ホステスのミャオとタイへの生活を夢想する。不況が深刻化し、真っ先に切られる外国人労働者たち。精司の働く土建業会社も当然のように倒産する。重い現実が展開する。
移民問題はヨーロッパなどでも深刻な問題を起こしており、民族間の文化摩擦、差別意識、経済格差などから生じる対立、軋轢は容易には解けそうもない。日本列島においてもこの問題は内在化しているが、映画でとりあげたのは多分、この映画がはじめてではないか。
出口なしかに見える状況を描きながら、映画は不思議なことに暗くない。むしろ居直ったかのような、不敵さ、ふてぶてしさ,が漂うのである。それがこの映画の最大の成果である。暗い状況を絶望をこめて描くより、底を突き抜けたかのようなアッケラカーンとした描写がより現実を撃つ力があり、伝わる場合がある。実際にそこで生活している人々をキャスティングしたということから生まれた臨場感やブラジルやタイの人々のもつ開放的な野生味、野放図さが画面に躍動感を生み、より効果を発揮する。
そして特質すべきは全編に流れる音楽の洪水。ヒップホップを中心にラテン、歌謡曲、民謡などが効果的だ。
監督 富田克也。第33回ナント三大陸映画祭のグランプリ「金の気球賞」を受賞。
トップページへ
"Lost Music of Rajasthan"と題する65分のドキュメンタリー番組が、この12月6日にイギリスのBBC ONE(日本のNHK総合テレビに相当する)というチャンネルで放映された。この番組では、撮影隊がラージャスターンの沙漠地帯を旅しながら、インド独立以降その存続が危機に瀕している楽師たちを探訪する。
ボーパと呼ばれる絵解き芸人が大きな布に描かれた絵巻を前に三日三晩物語を吟じる。そこにはサフラン色の衣装を身にまとい水キセルを吸う姉妹や女装の男たちが集まり、カルベリア・ジプシーの踊り子たちが後ろ向きに反り返ってルピー紙幣を口で銜える曲芸を見せたりしている。
 生きていながらにして既に伝説化したバンワリー・デーヴィーがラージャスターンの田舎の村の実家でクリシュナ神への賛歌を歌っている。彼女の巧みな歌声がガラスのない窓と素朴なつくりの家の戸口から漏れ聞こえる。彼女はそこで7人の自分の子供を含む22人の扶養家族と暮らしている。9歳か10歳のころに結婚し、今は未亡人となっている。12歳のときに長男を出産した。この長男が弟とともにハルモニヤム(手こぎオルガン)と太鼓で伴奏をしている。音楽はあたりの畑や沙漠に響き渡る。歌いながら思い余って涙するデーヴィーを、伝統音楽を支援する基金(JVF)のディヴャ・バティアが慰めている...。
 残念ながら番組自体を観ることはできないが、BBCのホームページにアップされたスチール写真とそこに添えられた上記の紹介文からおおよその内容を知ることができる。撮影地については詳しく書かれていないが、ジョードプルとジャイサルメールの周辺部ではないかと思われる。上記のJVFという団体は、調べてみるとラージャスターン州の州都ジャイプルにあるJaipur Virasat Foundation(ジャイプル文化遺産基金)であることがわかった。
 この番組で紹介される楽師たちはかつて各地の藩王や貴族たちがパトロンとなり、代々芸能を生業としてきたのだが、第二次大戦後の共和国政府成立と共にそうした制度が解体され、その存続が危ぶまれるようになった。このことを指して「消え行く」音楽と題していると思われるが、実際に現地を訪ねてみると観光客をパトロンにしぶとく生き延びている楽師たちの姿を見ることができる。(この模様は本HPのビデオアーカイブギャラリーに収められている。)そのエキゾティックな音楽や踊りを携えて欧米諸国や日本に公演に行き稼ぐものもいる。また、今回の番組で取り上げられているような支援団体による援助もあるだろう。この番組がそうした彼らの今と未来をどう描いているか、チャンスがあれば是非観てみたいものだ。(市橋雄二/2011.12.11)

このアーカイブについて

このページには、2011年12月に書かれたブログ記事が新しい順に公開されています。

前のアーカイブは2011年11月です。

次のアーカイブは2012年1月です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

月別 アーカイブ

ウェブページ

Powered by Movable Type 4.261