2014年12月アーカイブ

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    この小説は単なるミステリーの枠を超えており、ミステリーの常道に対する人々の固定観念が次々と覆される革新的な味わいに満ちた犯罪小説である。
    2011年にフランスで発表されるや否やリーブル・ド・ポッシュ読者大賞ミステリ部門(2012年)、イギリスの英国推理作家協会のCWA賞インターナショナル・ダガー(2013年)を受賞している。
    或る晩、パリの路上で若い女性(アレックス)が何者かに誘拐される。目撃者は一人。通報を受けて警察が捜査に乗り出すが、被害者の行方、身元、誘拐犯の正体も動機も一切不明のまま数日が過ぎる。その後の展開は目まぐるしく、意外性に富み、痛みを覚えるほどの描写が続く。
    最初、読者はアレックスの視点から世界を眺めつつ、この女性が魅力的ながら、どこか人生を降りてしまったような諦観の中にいることに気づかされるが、それすらも視野の深さではないかと思い込む。そしてアレックスに感情移入する。
    誘拐され郊外の廃屋の中に、檻に入れられて監禁されるアレックスが辿るその後の展開は衝撃的で、息つく暇も与えない緊迫感に満ちている。その上、ようやく読者が謎の解明に近づいたかと思うと、不意打ちを食らうような展開が待っている。
    一方の捜査陣のパリ警視庁犯罪捜査部班長のカミーユ、部下のルイとアルマンそしてカミーユの上司ジャンなどの登場、は、そのやりとりのユーモアに富む会話や各人のキャラクターの特異さを含め、小説全体の衝撃的な背景や社会の闇のなかで、救いとなる人間的な味わいに富み、人生の奥深さを浮かび上がらせ、この小説の奥行きを深めている。
    アレックスが苛酷な運命に翻弄され、さめざめと泣くシーンが多いが、これらは、妻も誘拐され亡くした体験を持つ警部カミーユが高名な画家である亡き母の遺産を巡り、様々な感慨にとらわれるシーンとクロスして切なく共鳴する。
    意外な展開は、単なる謎解きを越えて、"真実ではなく正義"というテーマに辿り着くが、そこに至るまでの伏線の設定や練達の筆力は、筆者のただならぬ力量を伺わせる。
    それにしても、これほどの筆力を持つ作家ピエール・ルメートルの著作のなかで、これが日本に紹介されるのは2作目というのは不思議だ。もっと読みたいと思わせる作家の登場だ。 ページをめくるのももどかしいほど熱中できたのはスティーグ・ラーソンの「ミレニアム」以来の読書体験であり、そう思えば主人公のアレックスは、ミレニアムの女主人公リスペットにどこか通じるものがある。苛酷な少女時代の体験を抱えて生きる女に共通するまなざしを感じてしまう。この小説でも各所で、スケッチを趣味にするカミーユがアレックスのイメージを何度もスケッチする場面が出るが、一番苦労するのがまなざしの描き方だった。よほど複雑で、窺い知れないものを湛えていたのだろう。映画化が予定され、ルメートル自身がシナリオに参加するようで、楽しみである。文春文庫。 ,
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