2015年6月アーカイブ

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    ストーリの起承転結も無く、この映画は突然、エンジン全開で突っ走り始める。異様で荒涼とした、絶望的な未来地球の或る場所で、追うものと追われるものの壮絶・壮快・カタルシス満開のカーアクションが圧倒的な迫力だ。
    逃げる車両の造形が無骨で、アナログっぽいにもかかわらず、格好いいことこの上なく、追っ手の車両軍団もまた、凄まじい造形であり、その中には先頭にエレキが仁王立ち、背後にドラム(太鼓)軍団が従うという漫画のような設定だが、この映画に占めるロック音楽の重要さを考えれば当たり前かもしれない。
    理屈抜きの画面作りだが、怒濤のように疾走するロックが全編を貫き、車両軍団の爆音、衝突音、銃撃音などが常軌を越えたボルテージで炸裂する。 
    全編この調子で突っ走るエネルギーはどこからくるのか。登場人物はマッドマックスと数人の女たち以外は、皆相当な異形といえるほどの相貌が並び、どこかマンガチックですらある。
    荒涼砂漠のカーチェースのシーンは時には美しく、抒情を醸し出すが、そんな気分を吹き飛ばしながら、ひたすら銃撃・衝突・転覆・爆発・曲芸的なバトルに没頭する。
    これほど映画的な文法を無視した演出も珍しく、監督のジョージ・ミラーはかなりアナーキーでニヒルな性向の持ち主かといらぬ考えも起きる。
    唖然とするほど、馬鹿馬鹿しく、笑わずにはいられない、無茶苦茶の極み。アニメーション、漫画でなく実写でこれほどの映像世界を作り上げたいう衝撃。
    見終わって、頭が冷静になってから、考えれば、理に合わない、不思議な箇所はいくらでもあるけど、そんなことは小さなことだと思えるほど、この映画の達成したものが凄いのだ。
    凄い金をかけてまで、こんな映画をまじめになって作っている人間たちがいることに私は 感動しつつ、こうした人々が増えていくことをひたすら希求する。 小津安二郎の「東京物語」は素晴らしい。黒澤明の「七人の侍」は(アクション映画としても)奇跡的な名画だ。そして「マッドマックス」のような荒唐無稽がある極地にまで到達したアクション映画も私は好きだ。
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    人生の最下点にいる男が、その底辺からのし上がるために新宿にやってきた。 白鳥龍彦(綾野剛)が足を踏み入れる女性たちの<幸せ請負人>スカウトマン稼業、 「俺がスカウトした女の子は必ず幸せだと言わせる」。
    わずか600メートル四方の地に4,000店以上の飲食店、風俗店がひしめき合う新宿歌舞伎町に展開するスカウト稼業軍団同士の仁義亡き、熾烈な戦い。
    和久井健原作の「新宿スワン」の実写映画化で、監督は脂の乗り切った園子温。街を往く女たちに執拗に声掛けを繰り返しながら、クラブにホステスを紹介する仕事だ。 そうしたなかでぼろぼろになりながらも、どこかにピュアーな心根が垣間見える龍彦の存在がこの映画の重心を支えている。「そこのみにて光輝く」で底知れぬ存在感を出した綾野剛が一転して現代風俗の最先端に生きる男を演じる。
    激しい武闘シーンや派手な殴り合いが連続する画面は園監督の鋭敏な演出が冴え、そうしたシーンからでもそこはかとない詩情が漂うのが独特の魅力ではある。 園子温監督のエネルギーの噴出するような演出には現代社会の堅牢な仕組み・構造に正面からぶち当たって玉砕するような爽快感がある。既成の価値観や常識を撃つ毒も魅力だ。
    ただ龍彦とライバル会社ハーレムで頭角を現すスカウトマン南秀吉(山田孝之)との決闘シーンで和解に至る説明が不鮮明である。因縁の過去が生きてこない。やや消化不良感が残る。
    東電OL殺人事件をモチーフにした「恋の扉」は背徳的で、暴力的、過激なエロス表現に満ちた快作だったが、前作の「TOKYO TRIBE」でも感じたのだが、破壊的な毒がやや薄められ登場人物たちの感情の起伏に劇的高揚感が伴わないのだ。登場人物が生身の人間として迫るものが弱い。自由自在に、奔放に躍動する人間が画面から飛び出してくるような作品を見たい。園子温なら出来るはずだ。
    この映画でもそれぞれが背景を抱えている人物が登場するが、生身の人間として際立ってきたのは白鳥龍彦(綾野剛)と真虎(伊勢谷友介)倉井だった。なぜか。監督自身の内的エネルギーが噴出するまで醗酵時間が足りないのではないかと危惧する。
    それでも好きなシーンはある。ぼこぼこにされ、絶望の縁に落とされた龍彦が歌舞伎町の街を歩いていくと、周囲の女たちから暖かい声が浴びせられ、己の仕事の存在意義を知らされ、落涙するシーンには底辺に生きるもの同士の繋がりをしみじみと実感させ感動する。
    この映画を見た後なぜか黒澤明の「酔いどれ天使」を思いだした。黒沢は主人公は酔いどれの医師(志村喬)と想定して、完成させたのだが、闇市を支配するやくざを演じた三船敏郎の存在の凄さが監督の想定を遥かに越えるもので黒沢自身が驚嘆したという。歌舞伎町を舞台にしたこの群像劇「新宿スワン」からでもそうした突出した俳優が誕生する契機になれば良い。
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