2016年2月アーカイブ

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    瀬々敬人監督の「ヘブンズストーリー」、そして呉美保監督の「そこのみにて光輝く」に連なる日本映画界の底力を十分に証明する秀作の登場である。そこに通底するのは現代日本社会の抱える闇に対する深い洞察と地底からのぞくかのような視座の低さそしてかすかな希望への渇仰である。
    物語は一見無造作に様々な手がかりを散りばめながら3人の人物を中心とした群像劇として展開するが、いずれの人物にも「罪と罰」の匂いが漂うところが橋口亮輔監督の最大の持ち味であり、不思議な魅力だ。
    通り魔事件で新婚の妻を失い、橋梁点検の仕事をしながら裁判のために奔走するアツシ(篠原篤)。不条理で過酷な体験に悩み続ける。 そりがあわない姑や自分に関心のない夫との平凡な生活の中で、突如現れた男に心揺れ動く主婦・瞳子(成嶋瞳子)。同性愛者のエリート弁護士・四ノ宮(池田良)はアツシの担当でもある。
    それぞれの現実は猥雑であり、重く、ずっしりした砂袋を背負うような疲労感に満ちているが、その中に暗いけれども笑ってしまうユーモアをまぶしている。普通の人々の日常性がこれほどヒリヒリを感じられるのが驚きだ。
    様々な秀逸なシーンがあるが、中でもアツシの上司の黒田大輔(黒田大輔)の登場するシーンは印象深い。昔、極左で、爆弾で隻腕の黒田がアツシを訪ねて弁当を食うシーンは泣ける。多分、橋口監督の思いを体現しているのが黒田大輔像なのだろう。当たり前の言葉をアツシに掛け続けることしかできないが、そこにこそ救いがあるという平凡の非凡さが胸をつく。
    また、弁護士・四ノ宮のシーンの言うに言われぬ空気感がおもしろい。
    生きにくい世の中を描いて、そこに埋没しない、細部をきちんと描き、そこから手がかりを見いつけだす・・・そうした極めて真っ当な思いを持っている監督の意志を感じるような映画だった。
    そしてこの作品は、撮影、美術、照明、音響などのスタッフの力が生み出したものでもあり、美学的になりすぎず、それでいて底光りするカットに溢れる画面だ。
    そして光石 研、安藤玉恵、木野 花、山中 崇、リリー・フランキーなどがそれぞれ好演している。
    昨年の後半11月に公開されたが、昨年度のキネマ旬報ベストテン第1位、監督賞・脚本賞 橋口亮輔 新人男優賞 篠原篤などなど多くの賞を総なめしているのは当然だろう。
    蛇足:主婦・瞳子を演じた成嶋瞳子は一見とぼけた味で好演であり、存在感もあったが、映画を見ながら、昔なら、左幸子、今なら寺島しのぶが演じたら、どうなったかと夢想したりした。それほど俳優にとっては演じがいのある役だった。また、橋口監督に成瀬巳喜男の「浮雲」のようなテーマのものを撮ってもらいたいという妄想も湧いたのだった。
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