映画「ボヘミアン・ラプソディー 」からフレディのルーツを考えた

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     クイーンについては熱心なファンでは無かったというより、関心の外にあったバンドであった。当時の己れの環境が主たる訳だが。だが、この度、「ボヘミアン・ラプソディー 」を観てから様々な事を考えるキッカケを与えられたのは正直意外だった。
    この映画は音楽映画としてはよく出来ており、特にラスト20分のカタルシスすら覚えるシーンの連続は、この20分の為に、前半からのすべてが準備され進んで来ていると思えるほど、劇的興奮を喚起させるラストであった。
    これほどのカタルシス的な感銘を感じたのは、同じ音楽ドキュメンタリーのジャンルでは1958年に開催されたニューポート・ジャズ・フェスティバルを記録したフィルムで、日本では1960年に公開された「真夏の夜のジャズ」以来のことだ。サッチモ、チコ・ハミルトン、チャック・ベリー、セロニアス・モンク、ジェリー・マリガン、アート・ファーマー、 ダイナ・ワシントン 等々が登場した後,ラストを飾ったのがゴスペルの女王マハリア・ジャクソン。彼女の讃美歌「主の祈り」の魂を揺さぶる名唱は今でも忘れられない。
    クイーンのライブエイドのシーンはそれ以来の経験で、巧みな映像音響処理により、稀に見る映像的達成となった。フレディ・マーキュリーの歌唱の絶妙なニュアンスと場内の空気を自在に操る身体性。存在の歌謡性とでもいうのか。もちろんメンバーのギターやベース、ドラムなどの渾然一体なハーモニーも大きな要因だが。
    ここで、フレディ・マーキュリーの出自について考え得ざるを得ないのだ。10世紀頃にペルシアからインド北西部グジャラート州に移り住んだパールシーと呼ばれるゾロアスター教徒の家庭の出身で、本名はファルーク・バルサラという。これらは今回初めて知ったことである。両親の描写が重要な要素として出てくるが、現在のタンザニア(ザンジバル島)出身のペルシャ系インド人であり、敬虔な信者のようだ。フレディは幼少期の大半をインドで過ごし、7、8歳の頃には様々な音楽に触れているようだ。彼の体験についてはしるよしもないが、気になることがある。
    彼のメロディラインと発声の仕方がインド、パキスタンで盛んな宗教歌謡カッワーリqawwali を思い起こさせるのだ。このことは、映画を観ながら、ずっと頭から離れない謎めいたテーマだった。
    以前、何回かのインド取材の際に、カッワーリを撮影したが、その時、周囲に満ちあふれた集団催眠にも似た陶酔感は不思議な体験だった。それは、歌い手のこぶしの回し方、浪花節的な節回し、同じ節、手の拍手の繰り返し等々の相乗作用から生じるのではないかと解釈していた。
    この時に味わった感覚と似たようなものがフレディ・マーキュリーの歌唱、節回しから偲ばれるのだった。
    カッワーリはインド亜大陸のイスラム教徒独特の宗教歌謡であり、古典的音楽と民俗音楽的要素を兼備する要素を持っている。かつて来日したヌスラットの熱唱が話題になったが、会場や野外の聴衆が陶酔的な雰囲気に染まる独特なコンサートだった。その歌唱はこぶしを聞かせ、思っ切りシャウトし聞き手の感情にグイグイと迫ってくる陶酔的な雰囲気に満ちたものだった。清濁併せ飲む宗教歌謡としか言いようがないものだった。
    ここで無理に理屈をつけるとDNA的にはフレディ・マーキュリーの声帯にはカッワーリの血が流れていると妄想するのも楽しい。さらに妄想を逞しくすると「ボヘミアン・ラプソディー」のボヘミアンの意味は
    1・ジプシーと呼ばれて来た少数民族ロマのこと。
    2・社会の慣習から離れて放浪する芸術家のような代名詞になり、のちに同様な知識人や放縦生活者まで含む呼称になった
    というような意味があり、ジプシー・ロマの起源はインド北部なのであることも楽しい妄想を掻き立てる。西アジアからインド亜大陸に暮らす人々の声帯が、フレディのヴォーカルにも活きているという妄想は果てし無く拡散していく。
    フレディは己の出自について語るのを好まなかったようだ。また、敬虔なゾロアスター教との両親への反発にも似た感情もあったろう。しかしながら、家族としての絆は愛憎半ばしても、己の音楽的才能は間違いなく両親、先祖から受け継がれて来たものだ。ラスト近くの、父親との抱擁、無言の母親の慈愛に満ちたまなざしが全てを語っていた。クイーンの フレディの音楽の持つ融通無碍な多様性こそ、家族、祖先たちからの遺産なのだろう。   
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    このページは、gypsy-trailsが2018年11月20日 18:01に書いたブログ記事です。

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