ピッツバーグ大学の音楽学部ロシア東欧研究センターと海外研修課は、来夏<チェコ、ポーランド、スロヴァキアにおけるロマの音楽、文化、人権>というテーマで海外研修プログラムを実施すると発表した。民族音楽を専攻する学部学生が対象で、3単位が与えられる。
この海外研修は、ピッツバーグ大学の音楽学準教授アドリアーナ・ヘルビク博士とプラハのチャールズ大学人文学部の民族音楽学講座主任をつとめる準教授ズザーナ・ユルコーヴァ博士によって企画運営される。
ロマの音楽と文化に特化したプログラムは、この種の海外研修としては初めてである。学生はロマのミュージシャンや活動家、住民との交流、調査、インタビューなどを実地におこなう。プラハでおこなわれる<カモロ世界ロマフェスティバル>に参加するほか、スロヴァキアのロマ居住地を訪ね日常生活の中のロマ文化に触れる。ポーランドではクラクフ周辺地域でロマのホロコースト(大虐殺)の歴史を学ぶ。学生はまた、チェコ、スロヴァキア、ポーランドの研究者や一般の人々との交流を通じて、欧州連合(EU)やその周辺で起こっているロマ問題の理解を深めることも求められる。
ロマ(ジプシー)の音楽はここ20年の間にワールドミュージック分野の人気ジャンルの一つとして認知されるようになった。その背景には活動する政治団体が増え、ロマ差別への国際的な非難も高まったこと、また教育機会の増大やメディアの好意的な紹介などによってロマの少数民族としての地位向上の動きが強化されてきたことが密接に関連している。ヨーロッパで最も差別される少数民族にとっては社会経済状態の改善にまだまだ多くの余地が残されていることは言うまでもない。しかし、生来の音楽家である<ジプシー>という古くからのステレオタイプを作り出してきた音楽は同時にロマの権利保障を引き出すのに重要な役割を果たすものでもある。
研修は2012年5月19日から6月5日までの期間おこなわれる。参加費用は、ペンシルバニア州内からの参加者が$3,850、州外からの参加者の場合$4,804で、航空券代、教材代は含まれない。別途手続き費用$300がかかる。学生は奨学金を申請することができる。
以上がピッツバーグ大学が発表している研修の概要であるが、決して安くはない研修費を出して参加する学生がどのくらいいるのだろうか。見当もつかないが、これまでにない新しい試みであろうから、長い目で見る必要もあるだろう。経済格差や失業への不満を爆発させたニューヨーク市民によるデモの報道では、内向きになってしまった大国アメリカの姿ばかりが強調されるが、この国には今回の記事のようにマイノリティーの文化を認めて地道な交流を試みるグローバルな市民感覚が地下水脈のごとく流れていることも忘れてはならない。
(市橋雄二/2011.11.5)