田中泯:「名付けようもないダンス」の衝撃性

  • 田中泯は肩書きを舞踏(家)と呼ばれることを好まず、ダンサーもしくは舞踊家と称している。まさに田中の言う「名付けようもないダンス」が5月18日のつくばの夜に展開された。
    身体の根源的な動きを探りつつ、肉体の内発的な衝動に従い、呼吸の営みや研ぎ澄まされた全身感覚が瞬間、瞬間に毛穴から噴出する情動に身を委ねるかのように田中泯はダンスする。その動きにはどれ一つとして反復がなく、既成の美しいとされる決めポーズからはずれており、屈折感に満ちている。この夜は演奏が緊迫した、疾走感の強いものだったから、田中のダンスも切迫感に富んだものだった。驚くべきは田中の肉体の柔軟さ、強靭さで70歳に近い身体ではない。
    とにかく彼のダンスからは従来の既成の、常識的な美的感覚、運動感覚か提示してきた意味や解釈を無意味化、解体し、新たな地平を切り開くエネルギーを感じる。不思議なことに2時間弱に及んだ田中のダンスの動きが人間の身体運動としてとてもナチュラルで、理にかなうものと納得してしまうのである。クラシックバレエのような空に舞い上がる指向、大地からの跳躍する方向ではなく、地底からの声に反応するかのような身体運動が人間と地球との関係性を象徴するようだ。
    このステージは「ブレス・パッセージ2014」として公演され、当日のパンフ(bigtory 大木雄高)によると
    「世界の異形の達人たちの出会い」として韓国サックスの至宝 姜泰煥(カン・テファン) (山下洋輔、大友良英などとの共演多い)、異能のドラマーで近年俳優としても個性発揮の中村達也二に加え、「あまちゃん」以来ブレークした大友良英を迎えた豪華メンバーと田中泯との共演だった。
    2008年ツアー以来、田中泯が参加し、2009年以降高橋悠治、田中、大友、土取利行ら圧倒的なメンバーと回を重ねつつ、いつしか 「ブレス・パッセージ」は田中泯を巡る達人たちの共演に変容していったという。
    演奏トリオの裂帛の気合いに満ち満ちたアヴァンギャルドなプレイはこれだけで十分成立する音楽的達成に満ちていた。即興演奏に加えて、奏者同士と田中との息詰まるような掛け合いが、さらに新たな劇的興奮を醸し出し、場内に緊張感が漲る希有な時間だった。
      
    きりっとしたたたずまいと異形の相を変幻自在に繰り出す田中泯のダンスをこれからも見続けていきたいと切に思った夜だった。(2014・5・18 つくばカピオホール)