アイスランドのミステリ作家アーナルデュル・インドリタソン

  • 北ヨーロッパのアイスランドのミステリ作家アーナルデュル・インドリタソンの本邦訳3作目である。「湿地」「緑衣の女」はいずれも好評で日本でも北欧ミステリ愛好家が増えているようだし、両作品共、思わず読んでしまうという力を持った作品だった。
    北欧ミステリの魅力はなんといっても、現代社会に巣食う深い闇を、北欧のメリハリのある自然の中で描き出しながら、人生の普遍的で根元的なテーマに肉薄する真摯な態度だ。
     クリスマスシーズンで賑わうホテルの地下室でホテルのドアマンが無残な殺され方で発見される。地味で孤独に見えたドアマンの驚くべき過去が次第に明かされていく。ドアマンの秘められた過去の栄光、悲劇、転落が明かされ、家族たちとの闇が次第に透けて見えてくる。
     この犯罪を解明していくのが主人公のレイキャヴィク警察麻薬犯罪捜査官エーレンデュル。
    エーレンデュルはスウェーデンの作家、ヘニング・マイケルの主人公クルト・ヴァランダーに通底する要素が多い。中年で人生に疲れているが、捜査官としての腕は凄い。家族の崩壊に悩み、娘との深刻な葛藤など共通点が多い。さらに弟を山の遭難で失い、トラウマになっている。
    クリスマス前後の数日間のホテルを中心にして展開するストーリーは、ホテルに勤務する人々、ドアマンの家族たち、警察官たちのそれぞれの個性などを的確に描写していく。登場する人物たちがそれぞれ個人的に抱える悩み、問題点などを丁寧に描くことから、血のかよった人間としての息遣いが聞こえてくるのが好ましい。殺されたドアマンの数奇な運命と深い孤独感が胸に迫る。
    単なるミステリとしての謎解きの面白さとは、趣を異にする作風が北欧ミステリの特徴であり、魅力か。
    ヘニング・マンケル亡き後、アーナルデュル・インドリタソンがこれからも作品を生み出してくれることを望むのみである。