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- 2014年66歳で急逝した伝説的ギタリストのドキュメンタリー。パコ・デ・ルシアはフラメンコ界に革命を起こし、その枠を遥かに超えて様々なジャンルの音楽世界のリジェンドたちと交流を通して新たな地平を切り開いたギタリスト。
超絶的な早弾きとテクニックの持ち主でありながら、絶えず己の生み出す音楽に対して厳しい内省を繰り返し、その音楽探求の姿勢は求道者のようだった。このドキュメンタリーの監督、脚本、製作を長男のクーロ・サンチェスがを務めこともあり、飾らないアーチストの肉声が聞ける貴重な記録であり、これだけ、本音を語り尽くせたのも、長男、クーロの存在が大きかったのだろう。
マルタ・アルゲリッチの記録ドキュメンタリー 「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」が娘の監督によって初めて彼女の内面が明かされた場合に共通している。
パコへのインタビューは2010〜2014年に行われ、冒頭及び終幕のシーンはマジョルカ島の自宅で撮影されたという。映画の流れはパコへのインタビューへの応答とパコの独白めいた呟きのようなもので構成され、その合間に過去の様々な印象的な映像でモンタージュされ、単純ながら映像の持つ歴史的な価値に魅了され続ける90分だった。
とにかく全編、パコの裂帛の気合いと超絶的なギターが流れる中、夢中になって音楽について語り続けるパコの言葉に聞き入るのみだった。まるで、パコの指先に宇宙が宿るような瞬間に立ち会った気分だった。
特に印象に残ったのは1967年に出会い、共演したフラメンコの歌い手、カンタオールのカマロン・デ・ラ・イスラとのシーンだった。ともにシャイな性格で、無口な二人が互いの才能を認め合い実現した競演は新たな化学反応のようなセッションで、滅多に見られない音楽的な達成だった。ヒターノ(ロマ・ジプシー)でもあるカマロンの地を這うような歌唱は、パコには衝撃だったのではないか。
パコが活動を共にした、カルロス・サンタナ、ジョン・マクラフリン、チック・コリア、サビーカスなどが証言者として出てくるが、それだけパコの世界が広く、深いということだろう。
パコの音楽性の価値はフラメンコを完全に肉体化したうえで、自在に他ジャンルの領域で飛雄しながらも、終生にわたり、フラメンコの香りを放ち続けたことかもしれない。このドキュメンタリーを見ながら、(歴史的イヴェントやフラメンコの知識があろうがなかろうが、)ただ、ひたすらにパコのギターの音色に委ねていれば、やがて心の中に満ちあふれてくる感情こそがフラメンコの真髄である。