《ジェレム・ジェレム便りNo.63》消滅危機から言語を守る試み〜ウェールズ・ロマ語のオンライン講座

<英国のロマ・ジプシー・トラベラー向けメディア“Travellers Times(TT)”の今月の配信記事から>

ウェールズ・ロマ語の学習講座“Shikawa Romanus”が今年1月オンライン上に開設された。講座は英国ウェールズ地方のロマ語の日常会話を22の場面(エピソード)に分け、音楽や詩を交えてロマの歴史的、文化的側面にも触れられるように構成されている。サイトはウェールズの首府カーディフのロマ・コミュニティのデザイン会社が手掛けた。

ジャーナリストのJake Bowers氏は今回の講座の意義を次のように述べている。「ウェールズ・ロマ語がやっと言語学の研究室や100年以上前のヴィクトリア朝の学者の手から解き放たれて人々のもとに取り戻されたのです。制作にあたったロマの作家Frances Roberts Reillyと歌手・声優のBob Lovellのおかげです。ロマ語が多少わかる人もまったく初めての人もこの講座を聞いて、学んで、話してみて欲しい。」開設から1ヶ月、講座への関心は高く、世界中から登録者があるという。作家・ジャーナリストでTT編集長のDamian Le Bas氏、ジプシー研究の第一人者Thomas Acton氏など英国のロマ社会に影響力を持つ人々らも支持を表明している。

「実際に学習者からは好評です。あるミュージシャンはウェールズのジプシー音楽をもっと知りたいと言っています。自分たちロマの文化伝統を改めて見直したいという人もいます。」と前出のFrancesは語っている。今回吹き込みをおこなったBob Lovellは父親から古いロマ語を習ったという。父親は馬で移動式住居(ワゴン)を牽く伝統的なロマの生活を送る家庭に生まれ、自身は南ウェールズのロマ・キャンプで生まれている。父親は1947年にニュージーランドに移住し子供たちを育てた。エグゼクティブ・プロデューサーを務めるFrancesはウェールズ・ジプシーの父と呼ばれ18世紀にフィドル奏者、ストーリーテラーとして活躍したAbram Woodの直系の子孫で、4代前には伝説のハープ奏者John Roberts(別名Telynor Cymru)がいる。

学習講座は公式サイト(www.shikawaromanus.thinkific.com)から登録、テキストのダウンロード、音声聴取ができる。テキストと音声は無料。ただし、学習プラットフォームの使用料として年会費$ 5.00がかかる。

<筆者コメント>

ウェールズ・ロマ語はヨーロッパの広い範囲に分布するロマ語方言の中で話者数が少なく、近年消滅したとの情報もある。今回の講座が開発された背景には、コロナ禍の中、世界的にオンライン学習が進展したこともあると思われるが、それよりもこのまま自らの言語を亡くしてしまってはいけないという地元ロマ住民の危機感の方が大きいに違いない。また、上記の公式サイトに紹介されている22のエピソード項目の中に、あいさつや数の数え方、文法の基礎などどの語学講座にもある一般的な項目に加えて「浄と不浄(cleanness & taboo)」というエピソードがあって目を引いた。このインド起源の生活規範を保持していることがロマのロマたる所以でもある。

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