《ジェレム・ジェレム便りNo.64》世界の喜劇王チャーリー・チャップリンのロマ・ルーツをたどるドキュメンタリー映画、スペインでプレミア上映

ピレネー山脈の麓、地中海に面し独自の文化伝統を誇るカタルーニャ地方では毎年4月23日をキリスト教の聖人サン・ジョルディの日として祝う。恋人や親しい人がバラの花と本を贈り合う習慣から「本の日」としても知られる。この時期に合わせて同地方の中心地バルセロナで開催されるBCN映画祭で今年、チャップリン初の長編映画「キッド」(1921年)の公開100年にちなんだレトロスペクティブ上映が組まれた。そして、その「キッド」に続いて一本の新作がプレミア上映された。

原題を “Charlie Chaplin, A Man of the World”といい、チャップリンの孫娘で女優のドロレスとカルメンの二人がプロデューサー、監督として2年前から制作しているドキュメンタリー映画である。祖父のロマとしてのルーツに焦点を当て、出生の秘密から子供時代を検証、さらにチャップリンの映画をロマの視点から大胆に解釈し直し、ロマの民族性の作品への影響や迫害の歴史を描く。今回上映されたのは約53分のダイジェスト版。

チャップリン自身は自伝の中で、両親ともに半分ロマの血を引いていることを隠さずに記しているが、これまで1989年4月16日に英国ロンドンで生まれたとされてきた。しかし、1977年に死去したあと一通の手紙がベッド横のスタンド灯の中から発見され真相が明らかになる。手紙の送り主はロマの知人で、そこにはチャップリンが英国中西部のスメスウィックにあるブラックパッチ公園に停車中のロマのキャラバンのキャンプで生まれた夜のことが回想されていた。この手紙を発見したチャップリンの娘ヴィクトリアとその兄マイケルは「父は世界中から何千という手紙を受け取っていたのに、なぜこの一通だけを大切にしまい込んでいたのでしょうか。よほど思い入れがあったのでしょう。」と語っている。

孫娘の一人カルメン・チャップリンは制作発表をおこなった2019年のサンセバスチャン映画祭で映画雑誌にこう語っている。「祖父は自身がロマであることをよくわかっていて、それを誇らしいこととして父や他の子供たちに聞かせていたはずです。でも、そのことが見逃されていたのです。」二人の孫娘は祖父が父親マイケルに伝えたロマ・ルーツに対する思いに触発されてドキュメンタリーを作ることを思い立ったという。俳優となったマイケルは16の時に家を出たが、父親に対する深い愛情を持ち続けていた。

「祖父は厳格なヴィクトリア朝時代に生まれ、父は1960年代の空気の中で育ちました。教育の度合いはまるで違いましたが、ロマのルーツを辿ることへの興味を分かち合っていたようです。」ドロレス・チャップリンは言う。「映画はマイケルの証言をもとにチャップリン家のロマ・ルーツを追います。それが映画のストーリーラインに一本筋を通すことになっています。」マイケル以外の親族も出演し、一族の保管庫の中から初出の写真も発掘される。監督・脚本を務めるカルメンは祖父のロマ・ルーツをもとにチャーリー・チャップリンの芸風や「小柄な浮浪者」というキャラクター、そしてヒトラーへの抵抗を解き明かしていく。「ロマの人たちにチャーリーがロマだと言えば、皆納得するでしょう。映画の中のユーモアのセンス、ストーリー展開、映画や音楽の中の悲喜劇性を見ればすぐにわかるのです。」

バルセロナの映画祭でカルメンが語っている。「祖父は映画の草創期に現れた天才の一人です。演出へのさまざまなアプローチで映画を豊かなものにしました。表現力や技術力たとえば特殊効果についてもそうです。物語の手法は映画に多大な貢献をもたらしたと思います。」姉のドロレスも「チャーリー・チャップリンは多くのアーティストに影響を与えました。彼の映画は色褪せることがありません。今でもモダンで永遠なのです。それは今も観客が「モダン・タイムズ」や「キッド」を見ながら泣き笑っていることが証明しています。」と語っている。カルメンが最後にこう付け加えた。「チャーリー・チャップリンの映画はナショナリズムや分離主義が台頭する時代に人々を結びつける力があると思います。サイレント映画ではありますが、だからこそ世界共通のユーモアと愛情で語りかけることができるのです。」

(参考:romea.czニュース)

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