刺激的で、万華鏡のようなEthio-jazz

今までいろいろな音楽に接してきたが、エチオピアのミュージシャン、ムラトゥ・アスタトゥケ(Mulatu Astatke)の音楽には不意をつかれるような驚きと感動があった。普段、何気なく聞いているFMから流れていた或るメロディにざわざわしたものを感じて、番組表を調べて、Yekermo sew(賢者)という曲名だと分かった。この曲は素晴らしい。早速CD” ethiopiques~ethio jazz&musique instrumentale 1969-1974″を取り寄せた。

懐かしく、猥雑で、エキゾチックで、チンドン屋風で、ちょっと色あせた万華鏡を覗いた風で、しかも音楽的な濃度満点な極上の世界だった。とにかく最近のしゃれた音世界からは隔絶した唯我独尊のエチオピアジャズとしか言いようのない音世界だった。

多分この方面の詳しいファンからは、遅いよと言われそうだが、良いものは良いのだから仕方がない。ムラトゥ・アスタトゥケ(Mulatu Astatke)の履歴をみれば、ロンドンやアメリカでの音楽体験、なかでもジャズやラテンからの影響は深く、それらの体験とエチオピアへ戻ってからのエチオピアの音楽との融合がキーワードなのだろう。17歳からロンドンに暮らし、その後バークリーでの体験をへて、1970年代にアディスに戻り、彼の音楽が確立されたのだろう。

ムラトゥ・アスタトゥケの音楽を映画に取り入れたのは、ジム・ジャームッシュ。2005年にカンヌ映画祭のグランプリを受賞した「ブロークン・フラワーズ」のなかでYekermo sewなど3曲を効果的に使っている。

過去につきあって別れた女たちを訪ねて、身に覚えのない息子を捜すというロードムービーだが、ビル・マーレイが絶妙の脱力男ぶりを演じて相当面白い映画だった。この映画は見たのだが、そのときはビルが借りているレンタカーの中で流れていたというメロディを覚えていない。今となってはジャームッシュの感性に脱帽である。

さて、今年のフジロックフェスティバル13にムラトゥ・アスタトゥケは初来日をしている。このことも帰国後に知った。聞いたCDの表紙にはデューク・エリントンと微笑み合ムラトゥ・アスタトゥケが写っているが、どこか共通するものを持っているような気がする。
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