「生きる・踊る・描く」ロマ画家Ceija Stojka絵画展:≪ジェレム・ジェレム便り⑧≫

アウシュビッツを生き延びたロマの少女が大人になって誰に教わるでもなく絵を描き始めた。足を高く蹴り上げて踊る男とロングスカートの女、画面いっぱいのひまわり、雪の中の幌馬車、そしてアウシュビッツで辱めを受ける全裸の女性たち・・・。絵には明るくて力強く、どこか暖かみのある、あらゆる人を包み込むような優しさが漂っている。サンフランシスコの北部にあるソノマ州立大学の図書館で9月17日から一ヶ月間、ロマの画家による絵画展が開催されるというニュースを見て、大学のホームページにアクセスしてみた。

そこでは、数点の絵が画集のページをめくる様に見られるようになっていて、居ながらにして絵画展(あくまでも一部だが)を楽しむことができる。そして、初めて目にした数点の絵にとても心を動かされたのだった。ツェイヤ・ストイカさんは1933年オーストリア生まれの76才。ナチ時代に多くのロマが虐殺の犠牲になったことがほとんど知られていないとの思いから、1988年には自らの体験をつづった手記も出版している。今回の絵画展は、ソノマ州立大学のドイツ語教授グロッベルさんが、3年前にマイノリティーに関するセミナーでウィーンを訪れた際に、ストイカさんに初めて出会い、ストイカさんのアパートに招かれてたくさんの絵のストックを見たときの「衝撃的な体験」から始まったという。今年2009年の春にオレゴンのパシフィック大学、そしてソノマ大学のあとはヴァーモント州ストウのギャラリーに巡回することになっている。ストイカさんの絵が海を渡るのは初めてだそうで、自分の絵がアメリカで公開されることを涙を流して喜んだという。1999年にはストイカさんのドキュメンタリー映画も作られていて、展覧会に合わせて上映されるそうだ。

前述の電子画集はホームページに載っている男女の踊りの絵をクリックすると見ることができる。もっとも心を打たれる絵はやはり、アウシュビッツの女たちを描いた一枚だ。絵の横にはストイカさんによるコメントが次のように付されている。「彼女たちはとても恥ずかしいのです。しかし、手は二本しかありませんので、恥部を隠すか両目を覆うか、どちらかになってしまいます。だから、彼女たちの顔には目がないか、あってもとても薄いのです。この絵は「アウュヴィッツの美人たち」といいます。オーストリアでは美しい女性についていろんなことが言われますが、これこそが本物、本当の美人です。」(市橋雄二)