《ジェレム・ジェレム便り41》〜クロアチア郵便が発行する記念切手「世界ロマ語の日」

  • 「世界ロマ語の日」はクロアチア共和国のロマ人教育協会<カリ・サラ>の発案で、2009年11月5日にザグレブで初めて祝われた。11月5日という日は、2008年にヴェリコ・カイタジ編纂による最初のロマ語・クロアチア語辞書が刊行された日を記念して選ばれた。
    2009年11月5日の「世界ロマ語の日」創設にあたって、ロマ語に関する宣言が第一回ロマ語に関する国際シンポジウム(現在は毎年ザグレブで開催)に参加したすべての国の議会に向けての勧告として発布された。ロマ語に関する宣言と11月5日の「世界ロマ語の日」の制定は2008年にザグレブで行われた国際ロマ連盟(IRU)の第7回大会で承認され、連盟はこの日を世界中のロマの人々にとって重要な一日として祝うことを決めた。
     「世界ロマ語の日」には毎年ザグレブでロマ語に関する国際シンポジウムなどの文化的な催しが行われる。シンポジウムにはおよそ20カ国からロマ語研究者、言語学者、作家、ジャーナリストらが参加する。国際シンポジウムの目的はロマ語の標準化の基礎を築くことにある。これまでに取り上げられた議題にはロマ語の標準化と体系化、ITにおけるロマ語の使用、家庭内のロマ語の役割などがあるが、今年の中心テーマは教育機関におけるロマ語の導入である。
     ロマ語は未だ標準化されておらずおよそ60の方言に分かれているため、標準化と言語保全に関する更なる研究が待たれている。ロマ語の標準化は母語による教育面だけでなく、民族意識の維持という少数民族としての権利の実現のためにも重要である。さらにロマ語の使用は公的には認められておらず、日常生活のコミュニケーションに限られていることから、メディアや文化活動などの場面での使用もさらに促進されるべきである。こうしたことも「世界ロマ語の日」を祝うことの目的のひとつとなっている。
     クロアチア議会は「世界ロマ語の日」を支持する世界初の国会となった。推進役はヴェリコ・カイタジ議員で、すべての国会議員が支援したことにより、2012年5月25日、11月5日を「世界ロマ語の日」とする国際的な提案を支持する議決がなされた。
    「世界ロマ語の日」には毎年ザグレブでフェレンツ・シトイカとシャイプ・ユスフの業績を記念した賞が功労者に贈られる。フェレンツ・シトイカは19世紀の終わりに1万3千のロマ語の語彙を集めた最初の辞典を出版したロマ人の辞書編集者であり、マケドニア出身のシャイプ・ユスフはロマ語の最初の文法書の一つをまとめた同時代の人である。
     ロマ語はインド・ヨーロッパ語族のインド・イラン語派に属する言語で、ロマ語の単語にはインド起源が認められる。これによりロマがインドを故地とすることが確認されている。1971年4月にロンドンで開かれた第一回世界ロマ会議の席上romani chibと呼ばれる言語が公式のロマ語であると宣言された。ロマ語で書かれた最古の文献は1537年ロンドンで発行された。クロアチア語の隠語にはお金を意味するlovaなどいくつかのロマ語起源の語がある。
    (市橋雄二/2013.11.4)