《ジェレム・ジェレム便り50 》〜「ロマ移民の増加」は作り話か:欧州評議会委員の談話から

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    「欧州連合(EU)へのロマ移民の数が他と比べて多いという証拠はない。」欧州評議会の人権担当委員ニルス・ムイズニクス氏は、最近発表になった人権に関する談話の中で、「ヨーロッパにおけるロマ移民に関する偏見と先入観を覆すときである。」と述べた。
     ロマに関する政治やメディアにおける議論はヨーロッパ諸国で盛んになっている。2004年と2007年のEUの東欧への拡大、そして2014年多くの加盟国がルーマニア人とブルガリア人の就労制限を強化したことなどが原因で、ロマ移民の脅威というムイズニクス氏が言う「根拠がなく煽動的な」言説が飛び交っている。英国、ドイツ、スイス、イタリアなどの国々のメディアは、しばしばロマ移民の実数について根拠のない数字を掲げている。」
    しかし、ブルガリアやルーマニアからのロマ移民の「侵入」は就労制限以降発生していないという。 
    「たとえば、フランスではロマ移民の数は2000年代初め以降1万5千から2万人と言われているが、去年私がストラスブール(フランス)のロマ居住区を訪れた際、そこでのロマの数はここ数年400人前後から変わっていないと教えられた。」とムイズニクス氏は言う。
     「政治家そしてメディアはそろそろ移民増を煽ってロマに汚名を着せることをやめ、客観的な人口統計あるいは経済に関するデータを使うべきで、人種差別的なレトリックは厳しく戒め、道義的なジャーナリズムを推し進めるべきだ。もうひとつ、ロマ移民は社会保障制度を乱用し、主流社会に溶け込むことを拒んでいるという誤った先入観があるが、こうした見方は事実に基づくものではない。」 
     
    2013年の調査から、欧州委員会は、EU内の移民(ロマを含む)が受け取る手当以上の納税によって移民受け入れ国に実質的な貢献をしているとの認識を明らかにしている。また、移民たちは母国にいたときよりも失業手当や扶養手当に頼ることが少なくなっている。
    「大事なことは、一口にロマ移民といっても多様な存在であり、多くは就労し、新しい受け入れ国に溶け込んでいるということだ。」 
    以上の記事は、中国の「上海日報」WEB版に掲載された英文ニュースをもとにしている。内容もさることながら、中国メディアが人道的な観点からヨーロッパにおけるロマの問題を取り上げているところが興味深い。これを中国メディアの成熟と見るか、プロパガンダと見るか。和諧社会の実現を標榜し、階層対立の解消に躍起になっている中国としては、少数民族や大量に都市部に流れ込む農村部人口もうまく主流社会と調和して生存しうることの事例として解釈し、自らの国家のあるべき姿とだぶらせたイメージを国際社会にアピールしようということか。そうであれば、やはりこれはプロパガンダということになるのだろう。
    (市橋雄二/2015.7.18)