重い痛み〜「アヴィニョンのピエタ」






  • 徳島県の鳴門にある大塚国際美術館に行く機会があり、評判の陶板名画を見てきた。6名の選定委員によって厳選された古代壁画から、世界25カ国、190余の美術館が所蔵する現代絵画まで西洋名画1000点が製陶の特殊技術によってオリジナル作品と同じ大きさに複製してある。オリジナル作品は環境汚染や地震、火災などから退色劣化を免れないものだが、陶板は2000年以上色と姿を留めるので、これからの文化財の記録保存のあり方にも貢献するとされている。
    過去、美術館各地で見たことのある名画の数々を堪能してきたが、一番、思いがけない出会いはルーブル博物館で強烈な印象を得た、アンゲラン・カルトの「アヴィニョンのピエタ」
    だった。絵画に関しては、全くの素人で、審美眼にも自信はないが、おびただしい名画を数日間鑑賞して、圧倒的な存在感を示したのが、この一枚だった。
    1450年頃にフランス北部の出身の画家でアヴィニョンで活躍しはじめたようだ。この絵画は長い間作者不詳とされてきたが、近年はガルトン作と認定されいるという。
    イタリア語で哀れみ・慈悲などを意味するピエタは聖母子像のうち、死んで十字架から降ろされたキリストを抱くマリアの彫刻や絵を意味するが、ミケランジェロの彫刻をはじめ多くの画家彫刻家が傑作を残している。
    この一枚に、なぜ、かくも引きつけられるのか分からない。絵画技術的にはもっと練達の画家がいたろうし、宗教的な感動に溢れた傑作も限りない。展示場の説明文を以下ののせる。
    「神なる母の祈る姿が金地中央に際立つピエタは死せる息子を抱いて悲嘆にくれる聖母という現実的な内容を持つ主題であるが、しかしここでは哀歌(1章、12節)による銘文が示すように、我々を救うために原罪を贖ったキリストのこの上ない苦しみを瞑想することをテーマにしている。弓なりに硬直するキリストの身体が重い痛みを沈黙の内に語りかけてくる。・・・」