竹原ピストル・弾き語りコンサート記

 

  •  「よー、そこの若いの」という歌をバックにショートドラマが展開するテレビCMと言えばピンと来る方も多いだろう。その歌を歌っているのがシンガーソングライター・俳優の竹原ピストルだ。この1年は映画『永い言い訳』(西川美和監督)での日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞の話題やNHKの音楽番組SONGSへの出演で一挙に人気が出た。ついにはこの暮の紅白歌合戦に初出場する。
    12月21日、コンサート会場の中野サンプラザは「若い頃に聴いていた音楽はよかった。最近の歌はどれを聴いても一緒でちっとも面白くない。でもこれは自分の歌だ。」そんな顔をした大人たちであふれていた。
     短髪のごつい体に人懐っこい表情を浮かべる40がらみの男はギター1本片手に全国を回り、年間300本のライブをこなすという。10年以上前に二人組のフォークバンドで音楽のキャリアをスタートさせたがヒットせず、その後ソロになり地道な活動を続けてきた。竹原の魅力は何と言ってもその飾り気のないストレートなキャラクターと歌に込められたメッセージだろう。歌詞は思い通りにならない日々の苦悩を乗り越えて明日のために生きようとする市井の生活者の一人一人の心に突き刺さる。決して「歯の浮くような」きれいごとは歌わない。それは学生時代にボクシングの選手だったことと無縁ではあるまい。先のNHKの番組SONGSには「魂の叫び」というタイトルがつけられていたが、まさにその叫びに誰しもが引き寄せられる。そして、ライブを見るとわかることだが、迫力のある歌声をギターとハーモニカの確かなテクニックが支えている。
     竹原の歌が若者だけでなく中高年の大人にもアピールするのは、竹原の日本語のセンスによるところも大きいだろう。今の時代の歌は自らが作り、演奏する「自作自演」が主流で、「君」に対する「僕」のせつない気持ちを歌う内省的な歌であふれている。
    かつてプロの作家が歌手のため歌を提供していた昭和歌謡の時代には、歌は情景を描いたものだった。そこにはドラマがあり、歌い手はドラマの主人公だった。聴衆は歌を聴きながら情景を思い浮かべ共感する。そんな歌の楽しみ方があった。竹原の歌のアプローチは昭和歌謡のそれとは又違うが、やはりドラマが感じられる。
     ライブで歌った『Amazing Grace』がよかった。歌前のMCで、メロディーはゴスペルの原曲から借用しているが、歌詞は翻訳ではなく自分のオリジナルであると説明していた。歌は「みじんこくらいに小さくなって」で始まり、1番では「あなたの白髪を勝手に黒く染めてあげたい」と歌い、3番になると「あなたを蝕むがん細胞をぶっ殺してやりたい」と絶叫する。竹原がみじんこになって病気と闘ってくれている姿が脳裏に浮かんで微笑ましくもあり、その人間的やさしさに心を打たれた。
    (市橋雄二/2017.12.24)