《ジェレム・ジェレム便り57》もう一つのワールドカップ大会〜知られざるスリングショット競技の世界

 このたびのラグビーワールドカップ日本大会で日本代表チームは本当に強かった。まさかと思われたアイルランド戦での勝利に「もう奇跡とは言わせない」との名実況が飛び出し、日本中を熱狂させた。ラグビー界が長年にわたってルールの改良に取り組んでいることが奏功し、安心して観戦できるフェアなスポーツになったことを印象づける大会でもあった。

 さて、同じワールドカップでもゴムパチンコの大会があると聞いて驚かない人はいないだろう。日本ではまだほとんど認知されていないが、欧米などにはスポーツ競技として楽しむ人たちがいて、世界大会まで開かれているのだ。Y字形の木の枝や金属の上部にゴムを取り付けて玉を飛ばす道具(ゴムパチンコ)のことを英語でスリングショットというが、日本では子どものおもちゃとして扱われてきたことや、鳥や動物を狙うハンティング目的で用いられるせいか、なかなかスポーツ競技として受け入れられないのかも知れない。

 スリングショットはイギリスではカタパルトとも言う。軍事用語で滑走距離が十分に取れない空母上で艦載機を射出する際に使われる装置の意味もあり、勢いをつけて押し出す(飛ばす)イメージが共通する。競技の基本は「一定の距離から的を狙って撃つ」という点でアーチェリーやライフルと似ていて、矢や弾に相当するのは直径1センチほどの金属の球だ。ゴムパチンコは普通Y字を縦にして手に持ち、ゴムを引っ張って球を飛ばすが、スリングショットの世界ではY字を寝かせるようにしてグリップを握り、二又の上の先端部を照準器代わりに使うことが多い。いかに正確に的を射るかという競技面以外に、道具自体の楽しみもあるようで、ワールドカップに参加している選手たちを見ると、皆小型のアタッシュケースに自分のコレクションを収納して持参し、見せ合っては道具自慢をしている。アメリカなどでは市販品のスリングショットが各種通販で売られているが、自作派も多く、機能的な工夫を凝らしたり、グリップ部分の装飾にこだわったりしている。

 ながながとスリングショットの話をしてきたが、実はイギリスにあるRomany Custom Catapultsという工房が世界一と言われる手作りゴムパチンコを作っているというニュースに接して俄然興味が湧いたのだ。Romany Custom Catapultsとは「ロマ様式にカスタムメイドされたゴムパチンコ」ほどの意味だ。Y字形の基本構造を成す駆体にアルミを使用し、グリップの部分に木材やプラスティックで厚みをもたせ、大小さまざまな形に仕上げていく。実物を見ていないのではっきりとは言えないが、制作にあたっては各部位の重さのバランスや握りやすさ、全体的な安定感などが計算されているようだ。なるほど金属細工や籠作りなどの手仕事を長く生業としてきたロマならではの匠の技とも言うべき仕事になっている。

 昨年6月、イタリア中部のグアルド・タディーノという地方都市でSlingshot World Cup 2018が開かれた。イギリス(イングランド)、スペイン、ドイツ、チェコ、ベルギー、インド、中国、アメリカ、ブラジルなどの国から老若男女が集まって行われた大会はこちらも手作り感いっぱいで、映像からは同好の者同士ならではの和気あいあいとした雰囲気が伝わってくる。そして、試合はなんと中国勢が1位、2位を独占するという結果に終わった。中国にもゴムパチンコを自作して競技に打ち込んでいる人たちが相当数いることがうかがえる。Romany Custom Catapultsからも選手が出場したが、試合の方はうまくいかなかったようだ。ゴムパチンコのワールドカップ。日本には当分縁がないかも知れないが、これもまた興味深い世界の現実である。大会の様子は以下のリンクから。https://www.youtube.com/watch?v=DzbSg-BCNhM

(2019.10.21/市橋雄二)

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