《ジェレム・ジェレム便りNo.60》コロナウイルス:ヨーロッパのメディアが伝えるロマ居住区の今

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックがヨーロッパのロマに大きな脅威となって迫っているであろうことは想像に難くない。ここ1ヶ月ほどのヨーロッパ発のニュースから現地の状況を報告する。

新型コロナウイルスに感染するリスクが高いのは持病を持つ人と医療従事者であることは広く世界に知られているが、ヨーロッパではさらに別のグループが危険にさらされている。それは、ほとんど見過ごされているが、ヨーロッパの中央部から南東部にかけて暮らす貧しいロマの人々である。そのほとんどが医療や衛生の行き届かない環境で生活しており人道的被害に直面している。人々は廃品やプラスチックゴミの回収、食品、日用品や花の販売などで貧弱な生計を立てているが、今はそうした仕事すら行うことができない。

平時でも差別に苦しんでいるこのコミュニティは、現在さらに不名誉な扱いを受けている。COVID-19の蔓延を防ぐための一般的な対策に加えて、スロバキア、ルーマニア、ブルガリアでは、ロマのコミュニティを検疫下に置くための追加制限を導入し、時には警察や軍隊を出動させている。こうした状況にヨーロッパ各地のロマの権利団体が警鐘を鳴らしている。ドイツのスィンティ・ロマ中央評議会は「中央および南東ヨーロッパでは右翼の過激派や愛国主義的な政治家が現在のコロナ危機を利用して人種差別的な政府の行動を正当化している。」と懸念を表明。また、チェコのある国会議員は「コロナウイルスの蔓延に際して社会の弱い立場の人々を保護する代わりに一部の政治家は反ジプシー主義を煽っている。」と訴えている。

ヨーロッパのロマの人口は推定で1,000〜1,200万人、地域最大の少数民族と言われる。大半がチェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、セルビア、北マケドニアの7か国に暮らし、それぞれに居住区の存在が知られている。たとえば、スロバキア東部コシツェ県のルニックIX、ブルガリアのプロヴディフにあるストリピノボ、ルーマニアの首都ブカレストにあるフェレンタリ、北マケドニアの首都スコピエ近郊のシュトオリザリなどである。これらの地区では住宅環境が悪く、3世代または4世代が1つまたは2つの部屋に暮らしていることも珍しくない。インフラも貧弱で、浄化水へのアクセスがほとんどなく下水道も壊れているか、あってもきちんと整備されていない。これらが伝染性コロナウイルスの蔓延に好都合な条件を生み出している。しかし、各国の当局は標準以下の状態を是正することによってパンデミックの拡大を防ぐのではなく、抑圧的な手段によってロマのコミュニティをさらに厳しく取り締まっているのが現実である。

ベルリンの人道的助成基金関係者は「ロマの住民が無視され続ければ悲惨な事態になる。多数派の社会はロマの失業が経済全体に悪影響を及ぼすこと、またロマに対する右翼過激派の攻撃が民主主義に悪影響を及ぼすことをまだ理解していない。」と語っている。「ロマの貧しい人々の健康状態がロマ以外の人々に直接関わっていることを知らなければならない。」

スロバキアに新しく誕生した中道右派連立政権は問題を認めているが、対応には疑問が寄せられている。3月末イゴール・マトビッチ首相は、33のロマ居住区で海外からの帰国者に大規模なウイルス検査をすると発表した。検査は兵士を伴った軍医によって4月上旬から行われ、結果に応じて人々は国の施設に隔離されるか、居住区全体が封鎖されることになっている。マトビッチ首相は軍隊の使用について、国家による強権の発動ではなく、ロマ自体の安全を確保するためだと主張しているが、「軍隊の使用は国家が彼らのパートナーであるという印象を与えないばかりか、ロマをさらに非難しているようなものだ。」との声が上がっている。なお、5月11日付の最新情報によるとスロバキア東部プレショウ県ジェフラのドルヴェニク地区にあるロマの居住区で感染が拡大しており、政府の危機管理チームが入って検疫センターを設け、居住区を4つのゾーンに分けて一部を隔離エリアにするなどの対策が取られている。

ルーマニアとブルガリアでは、警察がロマの比較的大きな居住区のいくつかを封鎖した。多くの住民が海外から戻ってきて検疫規制に違反したというのが理由だ。ルーマニア南東部のタンダレイのロマ居住区では数十人の覆面警察官が通りをパトロールしている。ブルガリアの地方都市ノバ・ザゴラ、カザンラク、スリヴェンにあるロマ居住区でも状況は変わらない。

ロマ・コミュニティへの援助に消極的な国が多いなかで、いくつかの例外も伝えられている。たとえば、スロバキアの一部の地域では、地方自治体が携帯式の浄水器を提供し、またルーマニアのクルージでは郊外に住む300家族に食料品や衛生用品を含む支援物資が配布された。

ハンガリーでは、あるロマの権利活動家がロマ居住区の住民への特別支援を求めて政府とアーデル・ヤーノシュ大統領宛に要望書を送り、9項目からなる支援策を提案。その中で「ここでは人々は貯蓄も食料も医療もありません。やがて子供たちに食事を与えることができなくなるのではないかと心配しています。」と訴えている。

<筆者コメント>

ヨーロッパのメディアが発信するロマに関するニュースでは、その弱者としての側面だけが取り上げられることが多い。社会問題の告発である以上止むを得ないが、時に一面的な報道になりかねない。今回目にした記事も基本的にそうした視点で書かれていた。しかし、ロマの住民が皆同じ境遇にあるわけではなく、居住区によってはビジネスや外国への出稼ぎなどで成功した富裕層が存在する。

北マケドニアのシュトオリザリはロマ居住区の中でも比較的規模の大きなところだが、筆者が訪れた際に出会ったロマの中には、豪奢な邸宅を構え、ペットボトルのリサイクル事業を大規模に営むかたわらコミュニティ向けのテレビ局を運営するなど多方面に活躍する実業家がいた。また、ロマのネットワークを利用して世界各地のコミュニティの結婚式を巡り、儀式や祝宴のため生演奏をおこなって稼ぐ楽団一家は、最新式の電子楽器と大型音響装置を揃えていて実入りのよさを物語っていた。

いずれにしても、世界中の国がそれぞれ自国の危機への対応に追われる中、「国を持たない民」とも言われるロマの人々が忘れ去られることのないよう願って止まない。

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