彼岸花の咲き乱れる砂浜に流れ着いた少女は記憶を失っていた。海の向こうから流れ着いたので、宇美(うみ)と名付けられた。 その島では<ニホン語>と<女語>が話されていた。
宇美が流れ着いた島は亜熱帯の孤島でノロが統治する島であり、女性による統治の島だ。
宇美を助け生活を共にする游な(よな)が使う<ニホン語>は琉球語と中国語の混合、ノロたちが儀式に使う<女語>は日本語に似ている。
宇美が話していた<ひのもとことば>は 漢字や和製漢語を排しやまとことばをベースにし、英語も使用する。
地の文は作者の日本語。
このような多言語的環境の中で、女性による統治が実現した琉球文化圏に流れ着いた少女がノロ修業を行う過程がストーリーの骨組みになりながら進行する。
特に、宇美(うみ)、游な、拓慈(たつ)の三人組の若者の生き生きとした行動と会話で物語にダイナミズムが生まれ、三人の関係性の卓越した描写がこの小説の最大の魅力である。
沖縄を強く連想させる島を舞台に島独自に発展した架空言語世界に、様々な妄想や空想が浮かび上がる。琉球弧文化の多様性。島尾敏雄夫人で作家の島尾ミホのこと。嘉手苅林昌の島唄。喜納昌吉の「花」。
生硬な論理展開は若干あるが、何よりもイメージ飛躍が豊かであり、戦い・暴力や排外主義を乗り越える女性原理に基づく社会の文学的な表現は骨太く通奏低音として流れている。
著者、李 琴峰の言語感覚の鋭敏さに感服。
第165回 芥川賞受賞作。文藝春秋刊。