トニー・レオン讃 ~映画「ラスト,コーション」

■2007.12.19  トニー・レオン讃 ~映画「ラスト,コーション」
○名匠アン・リー監督の最新作「ラスト,コーション」は中国現代史のなかでも「政府が裏切り者とみなされていた、歴史の穴とも言える空っぽな時代」(アン・リー)を生きた二人の男女のものがたりである。
日中戦争の最中、重慶の蒋介石国民党政府の内部対立者、副主席汪精衛を日本が擁立して汪政権が成立し、重慶政府は汪精衛を裏切り者として、上海に秘密テロ工作機関を送り込んだ。トニー・レオンが傀儡政権特務機関の顔役イー。イーの暗殺を狙う女スパイ役ワン・チアチーに新人タン・ウェイが起用されている。
物語は当時の国際都市上海と香港を舞台に流麗な運びで進行する。2人の禁断の愛が映像表現上かなりリアルに表現されるが、時代背景の切迫感・焦燥感が丁寧に描かれているので、より説得力、迫真性が強い。
私は158分のやや長い物語をオペラに身を委ねる如く堪能したが、なんといってもトニー・レオンの俳優としての力量に魅了された。
今、世界中の映画界を見渡しても彼ほどの俳優はいないと思えるほどだ。ウォン・カーウァイの「欲望の翼」「恋する惑星」「ブエノスアイレス」「花様年華」、ホウ・シャオシェンの「悲情都市」、そして「インファナル・アフェアー」等々、まばゆいばかりの俳優経歴。
彼の場合は、演技のうまさなど俳優術もさることながら、彼がかもし出す甘美で憂愁な雰囲気、陰影ある人物造形などは天賦のものだろう。これほどの陰影感がありながら、花がある男優はアジア人のなかでは「雨月物語」(溝口健二)「乱れる」(成瀬巳喜男)などの森雅之以外に思い浮かばない。
アン・リー監督は2005年の「ブロークバック・マウンテン」に引き続き2007年にも「ラスト,コーション」で2度目のヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したことからも彼の存在感の重さが伝わる。尚ラスト,コーションLust CautionのLustは仏教用語の”欲情”を、Cautionは”戒め”を意味するらしい。公開は2008年2月2日シャンテ・シネ、Bunkamuraル・シネマほか。なお原作はアイリーン・チャン短編集 ラスト、コーション 色|戒 集英社文庫

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