■2009.5.17 カルベリヤ・ダンスにも通じる文化的連鎖::ベリーダンス・スーパースターズ東京公演(2009.5.15五反田ゆうぽうとホール)
●18時半の開場に合わせてコンサート会場に着くと、すでに入り口付近から大勢の人々でごった返していた。ロビーでダンス用の衣装や小物を売る物販コーナーには女性たちが群がり、CDやDVDを即売する人が人の多さにつられて大きな掛け声を上げている。もともと週末の土曜日と日曜日に予定されていた3回の公演が満席となり、急遽決まった特別追加公演において、このにぎやかさである。席がほぼ埋まっていたので、会場のキャパから考えて1500人は来場していたのではないだろうか。観客は30代から40代の女性が中心と見受けられた。ベリーダンスがブームとは言え、このような大きな会場を埋め尽くすまでの広がりがあるとはなんとも驚きである。
ベリーダンス・スーパースターズはアメリカ発のベリーダンスチームである。それ以外の予備知識はなく、とにかく次々と繰り出されるステージ上の踊りに集中した。おへそを出した形の華やかな衣装でステージ上を舞い踊るメンバー総出のイントロダクションに続いて、中近東の代表的な太鼓ダラブッカの奏者が登場して軽快なリズムを披露、ジプシーブラスのメロディーが流れる中、フロントダンサーがソロダンスを踊る。そして、アラブ古典音楽の弦楽器カーヌーン(台形の薄い共鳴箱の上に78本の弦を張り、爪をはめた指で弾いて鳴らす)の流麗なメロディーに合わせて6人のダンサーが踊るオーセンティックなベリーダンス。このあたりまでは、ベリーダンス・スーパースターズという名前が示す通りの内容だった。
その後、ラップ音楽やドラム&ベースのビートの利いたクラブサウンドに合わせたトライバル・ダンスからトルコの民俗的なラインダンスをモチーフにした踊りまでバリエーションの幅が広がっていく。2部に入るとクラシック・バレエやポリネシアン・ダンスとのフュージョンダンスまでが登場し、その大胆でトライアルなレパートリーには度肝を抜かれた。踊りがしばらく続くと、唯一ダラブッカの生演奏で伴奏するパーカッショニストが舞台そでから人なつっこい表情で現れて、観客とのコールアンドレスポンスで会場の雰囲気を盛り上げる。
総勢15名のこのチームは、エキゾチシズムあふれるベリーダンスを軸に世界各地のダンスの要素を取り込み、新しいダンスの魅力を作り出そうとしているのだ。ベリーダンスを<中近東の民族舞踊>から解き放ち、イマジネーションあふれる創作ダンスに仕上げたことで多くの新しいファンを引き付けることに成功したのだろう。一方で、ステージ終盤に9/8拍子の変拍子とともに、ダンサーがダラブッカを立てて、そのわずか直径30センチ程度の鼓面に乗ってからだを360度回すややアクロバティックな踊りも登場し、ローカルな土着性へのこだわりも匂わせる。
ベリーダンスのルーツのひとつにジプシー(ロマ)の踊りがあると言われている。素早い回転と腰の細かな振りは、インド・ラージャスターンのカルベリヤ・ダンスにも通じていて、一連の文化的連鎖を感じずにはいられない。(市橋雄二)