7年にわたるロマの人々との交流から生まれた写真集:≪ジェレム・ジェレム便り⑨≫

デンマーク出身の写真家ヨアキム・エスキルセンが妻で作家のツィア・リンネとともに、ロマの人々の暮らしを記録しようとハンガリー行きを決心したのが9年前。ここでの4ヶ月間の滞在が7年に及ぶ長いプロジェクトの始まりとなった。ロマの人々のことについて知れば知るほど彼らのことが気に入り興味も深まった。そして、その後インド、ギリシア、ルーマニア、フランス、ロシア、フィンランドと撮影の旅を続け、2008年に写真集を出版した。時に何ヶ月もロマの人々と生活をともにしたが、プライバシーが全く無く気が狂いそうになったこともあるそうだ。町のはずれで、通りで、そして森の中で、ゴミ捨て場で、小屋やテントの中で、エスキルセンが写真を撮り、リンネが文章を書いた。

写真集はヨーロッパでいくつかの賞を受賞。写真展が今もドイツで開かれるなど反響を呼んでいる。先月11月ドイツ・シュピーゲル紙オンライン版が、この写真展に触れてエスキルセン氏のインタビューを掲載している。「写真を見ると、従来イメージされているいわゆるジプシーの生活を伝えているものが多いが・・・」という記者の問いに対し、写真家は次のように答えている。「私の写真が、今世の中に流布するロマに対する固定した考えを取り除き、より細部を写し取った写真を提供することに役立てればうれしい。私の写真には、民族差別やその他様々な困難にもかかわらず生きることの喜びに満ちた人々が映っています。ぼろぼろの服を着て腕にぐずる赤ん坊を抱えていたとしても、被害者として描かれているのではないという事実への彼らの誇りが感じられます。彼らはまるで王様や女王様のように(堂々と)カメラを見つめています。たとえ、もっともみすぼらしい背景を前に立っているとしても、です。」

現在ドイツでは14000人(そのうち10000人がロマ)のコソボ難民の送還が議論を呼んでいる。独立を果たして平和な状態にあるコソボ地域に自発的な帰還を推奨する国連に対して、ドイツ政府はコソボ当局と協定を結び強制的に送還することを計画しているという。ドイツで生まれ育った子供たちはコソボ地域の言語であるアルバニア語が話せない上に、ロマの人々には雇用もない。このような状態で帰還させることは新たな緊張を生むとの懸念が広がっている。(市橋雄二)