持続する精神:「劇場」~シアターX(かい)

両国にあるシアターX(かい)で芝居を2本見た。室生犀星作「茶の間」田口竹男作「囲まれた女」という短編劇である。日本近・現代秀作短編劇100本シリーズの61,62本目の公演である。
それぞれおもしろく見たが、「囲まれた女」は作者のことは全く知らなかったが、全編京都弁の家庭劇はなかなか見ごたえがあった。だらしない京男たちに囲まれる、見かけは「はんなり」でも芯の強い京女の話である。戦後の混乱期に、闇屋まがいの酒場が舞台であり、駄目な父親、弟、元の亭主たちが繰り広げるやりきれないと同時に思わず笑ってしまう人間悲喜劇を見ながら、昔見た森繁久弥、淡島千影主演の名作「夫婦ぜんざい」(監督:豊田四郎)を思い起こしてしまった。登場人物が皆、いとおしくなってくるのは人間の弱さをあっケラカーンと披瀝しているからだろう。田口竹男は1948年38歳で逝去した作家で今回が初演という。
一方の「茶の間」は30代半ばに書かれた多くの戯曲のなかの一編で、夫婦間の微妙な心理のあやを犀星の実体験を交えて、淡々と描いた小品。大正末期の日本の家庭の描写が懐かしく思い起こされる。
シアターXは商業演劇とは真反対の志のある小劇場だが、知る人ぞ知る珠玉の演劇・芸術空間である。
いまどきこれだけ背筋のまっすぐ通った姿勢で運営する劇場が存在していける裏には尋常でない情熱があるはずだ。すべてはプロデューサーの上田美佐子さんの不屈の精神の反映であろう。