見終えてから、ジワーッと静かな余韻に包まれてくる映画だ。そして酷寒の風土と、風雪を越えてそこに生きる人々の呼吸が確かなものとして迫るのである。
中国東北部の北西側、ロシアと国境を接する内モンゴル自治区のマンチョウリー(満洲里)市の炭鉱の町ジャライノールが舞台である。急激な経済的変貌期にある中国では、東北部の辺境の地においても炭鉱は掘りつくされ、近く廃鉱にされる運命にあり、蒸気機関車も役割を終えて消えていかざるを得ない。
「時代との別れ」を描きたかったという監督、趙曄(チャオ・イエ)は30歳前後の若手ながら、風土と人間の関係を深い視野に納める練達の技を見せ、中国映画の底力を示している。
広大な露天鉱と石炭を運び出す蒸気機関車の一体となった風景の美しさは格別で、白黒映画を思わせる陰影豊かな映像は美術的ですらある。チャン・イーモウのデビュー作「紅いコーリャン」をはじめてみたときにも感じたが、中国映画人は荒漠とした大地や酷寒の極限の風土を表現するのが実にうまい。
露天鉱から採掘される石炭を運び出す蒸気機関車の機関手ジュー・ヨウシアンとその助手リー・ジーチョンが主人公の一種のロードムービーである。
定年を1ヶ月残して老機関手は退職することになり、娘夫婦のもとに帰ることになる。老機関手を慕う助手リー・ジーチョンは見送りながら、別れられずにジュー・ヨウシアンの後を追い続ける。老機関手は戻ることを幾度か説得するが、そのたび助手はすり抜けて追うのをやめない。次第に老機関手にも別れがたい感情が湧き出してくる。途中、路上カラオケで2人が歌謡曲を歌うシーンは人の思いの切なさがひしひしと伝わり胸にくる。そして必然的に別れはやってくる。
シンプルなストーリーながら、ふたりのあいだで交わされる一言二言が情感をにじませ、凍てつく風土とそこで働く人々の心模様が冷気を越えて伝わるのである。
俳優はすべて素人というが、老機関手と助手の存在感は体温が伝わるほどで、特に老機関手役はただタバコを吸い続け、セリフも極端に少ないながら、かつてのフランスの名優ジャン・ギャバンを彷彿させる味がある。