《ジェレム・ジェレム便りNo.23》ハンガリーの村のフレスコ画

低開発や貧困の特効薬と言えばやはり<観光>だろうか。専門家によれば、普通の観光よりも農業体験や文化遺産巡り、究極の体験ツアーの方がその地域に経済的利益をもたらし、草の根レベルの小規模なビジネスの方が観光客やジャーナリスト、ひいてはナショナル・ジオグラフィック・チャンネル(ドキュメンタリーの専門チャンネル)を惹きつけるという。実際、19世紀のスイス以来20世紀中頃のギリシア、そして20世紀後半のチェコに至るまで、観光はヨーロッパの多くの地域で生活水準の向上に重要な役割を果たしてきた。

同じことはヨーロッパで最も恵まれない農村地域にも起こりうるだろうか。あるハンガリーの村がこれを試みようしている。ボードヴァレンケ村の住民はその大半がロマで、ハンガリー北東部スロヴァキア国境の村に観光客を呼び込むために情熱的で繊細なジプシーの芸術を利用している。村の家々の壁をフラスコ画で飾る試みは2009年から始まり、美しい景観を作り出している。

セルビアのゾラン・タイロヴィッチら著名なロマのアーティストが絵を描くために招かれた。フラスコ画がボードヴァレンケ村の住民の手によるものではないことはさして問題ではない。この7月31日に開催されたF1ハンガリー・グランプリを記念してか、フレスコ画の一つに疾走するF1カーが付け加えられている。描き方がやや雑な感じがするが、おそらくこれによって新たに村を訪れる客もいるだろう。ボードヴァレンケを芸術の村にしようというアイデアは数年前に活動家エステル・パーストルがハンガリアン・ガード(ハンガリー人のための極右団体)のデモ行進に触発されて提言したと言われている。

ボードヴァレンケ村のプロジェクトは、貧しい農村地帯を経済の主流に組み入れようとする新たな試みだ。近くにあるアグテレクの洞窟群も村に観光客を呼び寄せるのに役立つだろう。フレスコ画には、白いドレスの花嫁や馬、天使やロマの伝説から取ったものなど独特の題材が含まれるが、こうしたほかでは見られない珍しいものこそが観光収入につながるに違いない。(市橋雄二/2011.8.20)