ヴェンダース日本公開最新作である。私は彼の映画はかなり好きで、特に「パリ・テキサス」(1984)で受けた新鮮な衝撃は忘れられない。サム・シェパードのシナリオ、ライ・クーダーのギター、テキサスの風景の寂寞感など「イージー・ライダー」(1969)と並ぶロード・ムービーの傑作であった。
また、ライ・クーダーがアルゼンチンの老ミュージシャンを追う姿を16ミリカメラで捉えたドキュメンタリー「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1999)もとても面白かった。
「パレルモ・シューティング」もロード・ムービーともいえるだろう。特に舞台をヴェンダースの故郷、デュッセルドルフからイタリア、シシリー島のパレルモに移る後半はロード・ムービーそのものだ。パレルモの撮影は16ミリだったようで、画面のトーンが潮風に晒されたようなトーンで効果的だった。
主人公の売れっ子カメラマン、フィンを人気パンク・ロック・バンド。ディー・トーテン・ホーゼンのシンガー、カンピーノが演じるが、相当のはまり役だ。全体的な雰囲気に華があり、まなざしが深い。一見、華やかな暮らしに疲れ、生の実感をもてなくなり、魂の再生を求めてパレルモに行き、そこで安らぎを得るというシンプルなストーリーだが、そこにはヴェンダースの様々なこだわりが散りばめられており、そこがこの映画最大の魅力だ。
まず、パレルモの描写が素晴らしい。前半のデュッセルドルフの街の風景や最先端の仕事場などにあふれる機能美に対比するかのようにパレルモの描写にはその歴史が生む人々の匂いが漂う。フィンはそこに精神の安寧を見出す。観光客では入れないパレルモの裏街が息づくシーンにはヴェンダース独特の抒情が生まれる。
そしてデニス・ホッパーの死神。アメリカン・ニュー・シネマの旗手となった「イージー・ライダー」の監督でもあったデニス・ホッパーが久しぶりにヴェンダース作品に出演、そして2年後に亡くなるという意味でも感慨深い。死神は主人公フィンと対峙する存在ながら、生死について根源的な対話を交わす。
未来から射る弓矢がフィンを狙うシーンなど、死神のシーンには時空を行きかう映像的飛躍が展開し、映画全体に奥行きを与えている。
フィンが生への希望を抱く存在として絵画修復に従事するフラヴィアを演じるのはジョヴァンナ・メッゾジョルノ。生を体現する存在としてミラ・ジョヴォヴィッチが妊娠8日月の本人役で出演している。
全編に流れるヴェンダース好みの音楽も聞き所。