鉈(なた)で閉塞日本列島を切る~映画 「サウダーヂ」

カミソリの切れ味ではなく、鉈で大魚をさばくごとく、ざっくりと袋小路にある日本列島の今を鮮やかに浮かび上がらせた異色作である。地方の苦悩を描くことで日本全体の矛盾を逆照射している。「サウダーヂ」とは郷愁、情景、憧れ、そして、追い求めても叶わぬものを意味するポルトガル語だという。
舞台は不況と空洞化に悩む地方都市、甲府。この町に暮らすどん底景気に翻弄される土木建築業の人びと、日系ブラジル人,タイ人などのアジア人が中心の移民労働者――彼らが本音丸出しで、ぶつありあい、追い詰められながら苛烈な日本列島で生きていく様を描いた群像劇だ。
話は2人の男を中心に進むが、とりたてて起伏あるストーリーがあるわけでもなく、街自体が主役のような映画であり、生きているかのような街の表情や工事現場が乾いた抒情を生んでいる。
“派遣”で土方として働き始める猛はHIPHOPグループ「アーミービレッジ」のメンバー。両親は自己破産しパチンコに逃避、弟は精神に異常をきたしている。多くの移民達が働く建設現場。土方ひとすじに生きて来た精司は妻がありながら、タイ人ホステスのミャオとタイへの生活を夢想する。不況が深刻化し、真っ先に切られる外国人労働者たち。精司の働く土建業会社も当然のように倒産する。重い現実が展開する。
移民問題はヨーロッパなどでも深刻な問題を起こしており、民族間の文化摩擦、差別意識、経済格差などから生じる対立、軋轢は容易には解けそうもない。日本列島においてもこの問題は内在化しているが、映画でとりあげたのは多分、この映画がはじめてではないか。
出口なしかに見える状況を描きながら、映画は不思議なことに暗くない。むしろ居直ったかのような、不敵さ、ふてぶてしさ,が漂うのである。それがこの映画の最大の成果である。暗い状況を絶望をこめて描くより、底を突き抜けたかのようなアッケラカーンとした描写がより現実を撃つ力があり、伝わる場合がある。実際にそこで生活している人々をキャスティングしたということから生まれた臨場感やブラジルやタイの人々のもつ開放的な野生味、野放図さが画面に躍動感を生み、より効果を発揮する。
そして特質すべきは全編に流れる音楽の洪水。ヒップホップを中心にラテン、歌謡曲、民謡などが効果的だ。
監督 富田克也。第33回ナント三大陸映画祭のグランプリ「金の気球賞」を受賞。