小沢昭一:写真集 昭和の肖像〈町〉~貧しさが生み出す力

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    昭和時代と言えば1926年から1989年までの60余年にわたる時代である。世界大戦から敗戦そして復興、高度経済成長へと突き進む波瀾万丈の時代だった。
    日本人は概ね貧しく、懸命に働くことで精一杯だった。じぶんが幸せかどうかなどと自問自答する余裕もなく日々の時間が過ぎていった。
    昭和4年生まれの小沢昭一はまさしく昭和の申し子で、敗戦の焼け跡のあっけらかんとするほど何もない貧しさの中にある、希望のようなものを手がかりに生きてきた。小沢さんが著した幾多の書物で繰り返し述べたのは、貧しさが生み出す芸能の力、人びとが前に進もうとする気持ちの尊さだった。
    まもなく小沢さんの1周忌である。筑摩書房から「小沢昭一:写真集 昭和の肖像〈町〉」が発刊された。小沢さんが長年、撮影してきた膨大な写真から人物、風景などを中心に編集部が入念な選定作業をへて編まれただけあって、内容充実で、どっしりとした手応えに満ちた写真集となっている。写真選定など若干参加したので、手前味噌になるのを押さえた物言いになるが、小沢さんも満足されるのではないかと思う。
    どのカットを見ても背後に小沢昭一のまなざしが透徹しており、小沢昭一の心の軌跡が伺われ、どのような思いで町や人々に接し、向かい合っていたのかが、しみじみと分かるのである。
    昭和40年代の中頃から、放浪芸の取材で日本各地を小沢さんと巡ったが、車で移動中にたびたび、小沢さんが「ちょっと、ストップ」というなり車を飛び出しカメラを構えるのだった。当時「話の特集」のカラーグラビア「小沢大写真館」を連載していたこともあり、田んぼの中に立つ看板から、風俗店のまがまがしい看板、町を行く老若男女などなど、小沢昭一的関心、興味に火がつけば、執拗に対象に迫っていった。
    一枚一枚を見ていると、昭和の匂い、街の匂いが ゆらゆらと画面から立ち上がってくる。 光と影の織りなす昭和の肖像がある種の哀惜感を伴い、胸に迫ってくる。