アンダルシアの土着性:映画「ブランカニエベス」(パブロ・ベルヘル監督)を観て

ペドロ・アルモドバル監督をして「最高のスペイン映画」と言わしめた本作は、モノクロ&サイレントという手法を用いて敢えて制作上の制約を課すことで表現力を研ぎすまし、撮影・編集という映像技術に加えて音楽や美術など多くのスタッフが参加して作る総合芸術としての映画の面白さを再発見させてくれる秀作だ。

ブランカニエベス(スペイン語で「白雪姫」の意)というタイトルが表す通り、グリム童話を題材にしながら闘牛とフラメンコを生み出したスペイン南部アンダルシア地方の土着性と1920年代という時代性の中にひとつの寓話を紡ぎだす。

土着性とは15世紀の終わり頃まで8世紀にわたって続いたイスラム支配の影響とちょうどその頃ギリシア、中東方面から流入し始めたジプシーがもたらした異文化が混ざり合うことによって醸成されたこの地域独自のものであり、そこに巡業の芸能一座や見世物小屋が娯楽として多くの人々を楽しませていた、ラジオやレコードが大衆化する前の時代を背景として、主人公である闘牛士の娘の数奇な人生の物語が展開する。

また、音が重要な役割を果たすこの映画ではフラメンコの音楽、すなわちパルマ(手拍子)とカンテ(歌)が効果的に挿入されている。歌の中でもカンテ・ホンド(深い歌)と呼ばれる魂の叫びのような地声の歌が印象的に響く。そして、映画には白雪姫の小人をモチーフにした小人芸人の一座がやはり主人公を助ける役割として登場する。一座の中にはジプシーの踊りを踊る者もいて、こういった演出はやはりスペインの映画ならではであろう。そのほかにも非情な継母の役を演じるベテラン女優マリベル・ベルドゥの役作りのうまさや闘牛シーンでの牛の演技(?)、ひょうきんで哀しい役回りの雄鶏など、見所の多い映画である。色と台詞をなくしたことがこのような細部を際立たせる作用をもたらしている。

アンダルシアの土着性の中に文化の混交を見出し、主流文化の中では埋没しがちな社会の周縁に生きる人間の生活の諸相を注意深く掬い上げて、現代の寓話を作り出すベルヘル監督の構想は、氏の出身がバスク地方であることと無縁ではないだろう。
(市橋雄二/2013.12.23)
映画『ブランカニエベス』は2013年12月7日より新宿武蔵野館ほか全国公開。