ベルリンの息づかいが聞こえる・・・映画「コーヒーをめぐる冒険」

  • 2年前に大学をやめたことを父に秘密にしたまま宙ぶらりんな生活を送っている青年ニコ(トム・シリング)のついてない一日をモノクロ撮影で撮った小品だが、なかなか奥深い味わいがあり、新鋭監督ヤン・オーレ・ゲルスターのデビュー作を歓迎したい。
    朝からのコーヒーを飲み損なってからの、コーヒーにまつわるエピソードを散りばめながら、売れない俳優、ダイエットに成功した同級生の女性、不思議な老人などとの短い出会いを通じて、青年ニコの戸惑いや気の弱そうな雰囲気は草食系の男子を思わせる。しかしながら、こうした若者像は先進諸国に共通した気分を抱えており、一見頼りないが、人間の多彩な感情のうごめきにたじろぎながら、人に寄り添う優しさも身につけているのである。このあたりの人間のかかわりを絵空事ではなく、多彩な人物像を実在感を伴いながら描く演出力は見事である。
    特筆すべきはモノクロで撮られたベルリンの町の息をのむような美しさだ。歴史的な出来事に遭遇してきたベルリンの息吹が画面から漂い、なんとも心地よい。通常、大都会の描写にはともすれば無機質で硬質なイメージが多く見られるが、本作では透徹したカメラワークがベルリンの奥深いたたずまいを余すところなくとらえている。
    2013年ドイツ・アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞・助演男優賞・音楽賞の6部門を受賞している。
    蛇足ながら邦題 「コーヒーをめぐる冒険」は良くない。現題の「Oh Boy」のほうが映画の気分を伝えている。