田中泯ソロダンス公演「昨日から」〜静逸な情熱

  • 場内が暗転し漆黒の闇に包まれる。「今晩は、田中泯です。」と田中泯の声がする。今夜のステージは、音楽が付かない無音のステージになると言い、「自然に行きましょう。携帯も切らなくていいでしょう。いや、やはり切りましょう。ぶつぶつ不満や、おならなどはいいですよ。自然にね。では準備しますので・・」と肩が凝らない空気の中で、ダンスが始まった。
    明るくなった舞台に、2メートル余の一本の角材の端を頭で支えている田中がいる。ぼろ切れ風長襦袢をまとい、長い間、角材を支え続ける。不動でありながら、足の指、ふくらはぎは微妙にけいれんのように震えている。シジフォスの神話や大震災・・・が脳裏をよぎる。
    2メートル四方の舞台の上とその周囲、そして打ちっぱなしのコンクリート壁など、ダンスするスペースは限られており、狭い場内のどこからでも田中の呼吸が手に取るように迫ってくる。こうした空間にどのように身体が反応するか、身を委ねているかにみえる。時折、間のように思える瞬間があり、素の田中岷が垣間見える。角材を離れて自在に身体を反応させる田中流のダンスに安堵の空気が漂う。壁に向かい合う身体運動では額が壁にごつんと当たる音が生々しい。
    1時間余で田中自身の「ありがとうございました」という言葉で終了。
    舞台に正座した田中はplan-Bのステージで踊り続けてきた至福の思いを述べ、ダンスすることの喜びを語り、農業する生活を語りながら、その中から生産したお茶や梅酒をうれしそうに紹介した。会場で販売されており、農業者としての顔を覗かせながら、彼のダンスの重要な要素に土、土壌、地面、地球というものが介在していることを確信させた。照明 田中あみ。
    2014年9月18日 会場:plan-B にて。