《ジェレム・ジェレム便り49》〜ブダペストのエスニックタウン「8区」を巡るツアー

  •  ニューヨークの一角に例えられるハンガリー、ブダペストのエスニックタウンが、その歴史や独特の文化混淆をテーマにしたツアーを組み、観光客の誘致に努めている。
     ヨージェフヴァロシュの名で知られるブダペストの中央部に位置する8区は普通ガイドブックで取り上げられることはない。この地区の一部はブダペストのブロンクスあるいはハーレムと呼ばれ、ロマ(ジプシー)を中心に、トルコ人、中国人、アラブ人、アフリカ人などが入り混じって暮らす。
     偏見や固定観念を少しでも取り除こうと、ロマの市民団体(Uccu Foundation)のボランティアたちが、外国人のみならずハンガリー人、特に市内のこの地域を知らない学生に向けたツアーをおこなっている。ツアーガイドのアンドレア・イグナツさんによれば「ロマの人々がここでどのように暮らしているかを紹介したかっただけ」とのことで、「多くのハンガリー人はここに来るのを怖がって、避けている。」と中央ヨーロッパ大学の学生であるイグナツさんは言う。
     90分のツアーはまずネプスィンハズ通りから始まり、ジプシーバイオリンの演奏家、商店、アートギャラリーや最近修復されたマーチャース広場などを訪ねる。ホロコーストの犠牲となったユダヤ系住民の記念館は、第二次世界大戦時のロマの虐殺や最近欧州議会が8月2日を<ヨーロッパのロマのホロコースト記念日>とすることに賛成したことなどについて話し合う場にもなる。
     ツアーにはドレヘール・ビールの倉庫跡地や今は集合住宅になっているが、かつてのビール祭りの様子が入口ホールの上部に素晴らしいモザイク画で描かれた建物なども含まれる。
    「このツアーがいいのは、ロマの人々が非ロマの人々に対しておこなっていることです。」アメリカ・バージニア州リッチモンドから来た学生は言う。
    「自分たちのアイデンティティー、自分たちのストーリーを持ち、それを自ら語ることが大切なことで、歴史や文化背景を共有しない他人に語ってもらうことではないと思います。」
    (市橋雄二/2015.5.24)