凄まじい造形、常軌を逸したエネルギー〜映画「マッドマックス 怒りのデスロード」

  • ストーリの起承転結も無く、この映画は突然、エンジン全開で突っ走り始める。異様で荒涼とした、絶望的な未来地球の或る場所で、追うものと追われるものの壮絶・壮快・カタルシス満開のカーアクションが圧倒的な迫力だ。
    逃げる車両の造形が無骨で、アナログっぽいにもかかわらず、格好いいことこの上なく、追っ手の車両軍団もまた、凄まじい造形であり、その中には先頭にエレキが仁王立ち、背後にドラム(太鼓)軍団が従うという漫画のような設定だが、この映画に占めるロック音楽の重要さを考えれば当たり前かもしれない。
    理屈抜きの画面作りだが、怒濤のように疾走するロックが全編を貫き、車両軍団の爆音、衝突音、銃撃音などが常軌を越えたボルテージで炸裂する。 
    全編この調子で突っ走るエネルギーはどこからくるのか。登場人物はマッドマックスと数人の女たち以外は、皆相当な異形といえるほどの相貌が並び、どこかマンガチックですらある。
    荒涼砂漠のカーチェースのシーンは時には美しく、抒情を醸し出すが、そんな気分を吹き飛ばしながら、ひたすら銃撃・衝突・転覆・爆発・曲芸的なバトルに没頭する。
    これほど映画的な文法を無視した演出も珍しく、監督のジョージ・ミラーはかなりアナーキーでニヒルな性向の持ち主かといらぬ考えも起きる。
    唖然とするほど、馬鹿馬鹿しく、笑わずにはいられない、無茶苦茶の極み。アニメーション、漫画でなく実写でこれほどの映像世界を作り上げたいう衝撃。
    見終わって、頭が冷静になってから、考えれば、理に合わない、不思議な箇所はいくらでもあるけど、そんなことは小さなことだと思えるほど、この映画の達成したものが凄いのだ。

    凄い金をかけてまで、こんな映画をまじめになって作っている人間たちがいることに私は
    感動しつつ、こうした人々が増えていくことをひたすら希求する。
    小津安二郎の「東京物語」は素晴らしい。黒澤明の「七人の侍」は(アクション映画としても)奇跡的な名画だ。そして「マッドマックス」のような荒唐無稽がある極地にまで到達したアクション映画も私は好きだ。