互いに因縁深い老将軍を黒人賞金稼ぎが射殺する事件に発展するが、その際、部屋に置かれたコーヒーポットに誰かが毒を盛る。この辺りからにわかに緊張感が高まりタランティーノの世界が次々に繰り広がられ、映画でしか表現できない不可解・不条理な血にまみれた殺戮シーンがこれでもかと続く。
ここには、文学性、抒情性、情緒、美学などの概念を突き抜けた B級映画の到達点があり、それは通俗性とは別の超通俗性とでもいうべきものだ。超怪作「マッドマックス怒りのデス・ロード」に通底する無意味性を感じ取るものもいるのではないか。
黒人賞金稼ぎの男が所持しているリンカーンからの手紙が小道具として生きているが、この設定に通俗性臭が匂うのがご愛敬か。それほど日常性から脱却させてくれる映像世界で、たっぷりとした満足感に浸れる3時間である。
俳優陣は皆、とても良いがサミュエル・ジャクソンが存在感で圧倒的であり、紅一点ジェニファー・ジェイソン・リーが徹底した汚れ役で面白い。
音楽がエンニコ・モリコーネなのであり、この辺りのタランティーノのセンスが嬉しい。
美術監督・種田陽平が「キル・ビルVol.4」以来、久方にプロダクション・デザインを担当しているのも注目。