2018年に翻訳刊行された「カササギ殺人事件」(創元推理文庫)は年間ベストテン7冠達成という快挙を成し遂げたことで著者の名前は忘れられないものとなった。その面白さは単なる推理小説というジャンルを超えたものであり、読み物としても逸品であった。今回の「メインテーマは殺人」も前作に劣らずの快作となった。
元刑事のダニエル・ホーソンという探偵が主人公という設定。そしてこの探偵の記録者になる「わたし」がアンソニー・ホロヴィッツ自身であるという意表をついた仕掛け。自分の捜査する作品を取材して本を書いてみないかという誘いがあり、作家としての葛藤はありながら、どこかに関心を抱いてしまった「わたし」はダニエル・ホーソンという不可思議な男と行動を共にすることになる。
二人が追うのは、自らの葬儀の手配をしたその日に、殺される資産家の老婦人ダイアナ・クーパーにまつわる事件である。この導入部から一気に引き込んでいく作者の力量は見事なものだ。10年前に彼女が起こした事件に関係した人物群、有名俳優となっている息子をめぐる演劇界の人々。注意深く読んでいっても、意外なところにある伏線の妙、ダニエル・ホーソンという男の複雑な魅力など一気に読み進んでしまう。全編に漂うユーモア、そして意のままに流れるような文体。相変わらずの自然描写の妙、訪問する家の中の細部に至る表現などが心地よく想像の世界を刺激する。推理小説が苦手な人が普通の小説として読んでも極上の味わいがあり、いいものはジャンルに関係なくいいのだという当たり前の結論に至るのである。