現業の芸人のパワー!!ムサフィール・ライブレビュー

■2007.7.23  7.03の更新記録でふれたムサフィール公演を市橋さんとみた。以下は市橋さんのレビューである。
<現業の芸人ならではのパワー!=ラージャスターンのジプシー”ムサフィール(Musafir)東京公演コンサートレビュー>
インドの北西部ラージャスターンから伝統芸能を携えてやってきたMusafirのステージは現業の芸人ならではのパワーに満ち溢れていた。伝統芸能というと何か過去のものというイメージがつきまとうが、彼らの演奏はそうではない。メンバーのミュージシャンたちはかつて王家や貴族などのパトロンに仕えて世襲で楽士をつとめてきたマンガニヤールという職能集団の出身だが、第二次大戦後藩王制が廃止され社会の仕組みががらっと変わったあとも、観光客や海外の聴衆をそのパトロンとして自らの芸を絶やすことなく保ち続けてきた。
2001年の夏にわれわれ(市川氏と筆者)がジャイサルメールを訪れた際、日々親から子、年長者から年少者へと芸が伝えられている様子を垣間見ることができた。マンガニヤールの中でも海外に出て演奏するのはごく一部でその背後には多くの現地ミュージシャンたちが存在する。そうした厚い層のなかから出てくるプロの芸人のステージが一級のエンタテインメントにならないはずがない。
7月18日東京渋谷のO-Eastで行われた公演は19時開始。10分ほど遅れて到着すると、ステージでは軽快なリズムの歌が響いていた。ジャイサルメール地方の有名な民謡「ゴールバンド」だ(*ビデオレポートの1曲目)。伴奏のドーラク(両面太鼓)の低音が腹に響く。あとで聞いたところではこの曲の前に<バパング>という一弦の楽器やたらいのような形の楽器を叩くシーンがあったらしい。音楽と大道芸を融合させた独自のパフォーマンスで新しいインド音楽の魅力を伝える彼らならではのオープニングである。
続いて長いボーカルの前奏部から始まる古典的な楽曲、そしてカルベリヤ・ダンスでは、手に持ったハンドシンバルで脛に結びつけた7個ほどのシンバルを順に打ち鳴らし、反り返って床に置いた指輪を両目ではさんでとるというアクロバティックな踊りを見せてくれた。
メンバーはタブラ、ドーラク、カルタール(口琴・バパング)、サーランギー&歌、歌&ハルモニウム、カルベリヤ・ダンサー、大道芸の総勢8名で曲に応じて出入りする。
その後、口琴のソロ、カッワーリの有名な曲「ダマーダム・マスト・カランダル」(*ビデオレポートの5曲目)を演奏したあと、自転車の車輪を頭や両手、両足にのせてくるくる回す大道芸と飽きさせることがない。オリジナルだという「旅人とラクダ」という歌の途中ではドーラクとタブラのソロを織りまぜていた。カルベリヤ・ダンスの2曲目は「カーリョー」(*ビデオレポートの2曲目)。黒地のスカートを広げて激しく回転し、体をくねらせ腰を斜め上にもちあげてぐんぐんと迫ってくる独特の動きは官能的ですらある。踊り子はすっかり疲れきって、踊りが終わるなり演奏者用の台に腰掛け息を切らしていた。しかし、続いてステージ最後の曲が始まると、そんな疲れをまったく感じさせず総勢8名が登場して、メドレーを演奏した。鳴り止まない拍手に応えてアンコール曲を披露。「ニンブラー」(注:オーディオレポートの2曲目にリンク)というノリのよい曲。2時間弱というコンサートとしてはやや短い時間設定であったが、会場を埋め尽くした観客は一様に満足していたようだ。
ムサフィール(Musafir)とは「旅人」を意味するアラビア語起源の言葉でペルシア語やヒンディー語でも使われる。実際にはムサーフィルと発音される。楽団を率いるウスタード・ハミード・カーンはラージャスターンの古典音楽家の家系に生まれ、パリでミュージシャンとして活動したあと1995年にこの楽団を作ったという。
そのハミード氏がMCでラージャスターンはジプシーの故地であり、自らをラージャスターンのジプシーだと名乗っていた。ジプシーという語は差別語としてタブー視されることが多いが、音楽の世界ではむしろ肯定的に捉えられることが多い。こんなノリのよいステージでロマなどと言い換えることは無粋というものだろう。そして、今回のコンサートの会場となったO-Eastは渋谷道玄坂上のクラブ・ストリートにあり最先端の音楽シーンのライブを提供している場所だ。そのことが今の彼らの音楽がどのような人々に受けているかをよく物語っている。インド音楽といえばシタール音楽という時代には瞑想しながら聴くものだった。そんな時代から遠く離れて、オールスタンディングで体を揺らしながら聞くインド音楽もあるのだということを改めて印象づけた今回の来日であった。(市橋雄二)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です