かくして神話は生まれる?ー不条理な世界

■2008.6.17  かくして神話は生まれる?ー不条理な世界
○毎年、フライフィッシングという毛ばり釣りで東北の山々の奥地にでかける。ここ20数年来の習慣になっている。特に岩魚(イワナ)、山女(ヤマメ)釣りのベストシーズンは東北では6月から始まる。5月までは渓流のにごりや増水などを起こす雪代(ゆきしろ:山に残る雪の溶け出す冷水)が残り、釣果にむらがあるが、6月になると一気に岩魚,山女たちは活性化し、えさを貪欲に追いだすのである。釣り人は先行者がいないポイントまで入るため、源流部に近い奥地までも入渓するものだ。
今回の岩手・宮城内陸地震で釣り人が数人含まれているのは、ある意味で当然であった。この地域は私も秋田北部への釣行の際に何度も通っているので、地形などは頭に入っているが、日本列島を東西に縦断する342号線、398号線などの沿線は人家が少なく山間の狭い平地に数軒の家々が点在する風景が連なる地域だ。磐井川の多くの支流沢にも釣人が入る。
その地を開拓し、長年住み続けてきたものにとっては離れがたいほどの愛着の情を抱かせるのがシミジミと美しい山々と川のある風景なのだ。
私も秋田北部の渓流の幾つかを釣り歩きながら、人里離れた奥地に入るとき、一番警戒するのは、熊との遭遇、ついで地震だった。しかしながらこの20年以上熊には遭遇したけれども、地震には一度もあっていなかった。今回の震源地も可能性は限りなくゼロに近い無警戒地域だったようだ。
山が崩落し、道路が消滅したこの地域の復旧は困難を極めるだろう。人口の過疎地域だけに費用対効果を考える行政にとっても頭がいたいところだろう。一方、山を開き、田を耕し幾多の苦闘を重ねてきた庶民の個人史は無残にもこうした形で閉じられるのか。不条理というしかない。
四川大地震からほぼ1ヶ月後の5月14日に起きた岩手・宮城内陸地震そしてミャンマーの大洪水被害も含めて甚大な地球規模の変動が起きている。地球が何らかの変動を起こしている。四川大地震で失われた人命には少数民族のチャン族の人々が少なくない。おそらく岩手・宮城内陸地震の何倍かの規模で崩落を起こした山間に埋まった人びとの正確な数は永久に分からないだろう。チャン族には民族創世の神話が残されているが、今回の大地震が後世、創世神話に新しいページに加えられるのか、生き残った人々が無念の思いをどのように語り伝えていくのか。
岩手・宮城内陸地震で一瞬にして山が崩落・消滅し地形が激変した姿を目にした人々は、この不条理な現実をどう受け止めるのか。山を離れざるを得なくなる山の民それぞれのこころの奥には何が残るのか。
人間の歴史は想像しえないほど巨大なエネルギーに満ちた自然による災害を目の当たりにしながら築かれてきた。かくして庶民には不条理な神話伝承・伝説が生まれるのか。個人個人の無念の思いの膨大な蓄積はどこに向かうのか。

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