今年の映画ベスト・ワン「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」

■2008.12.19  今年の映画ベスト・ワン「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」
○マーティン・スコセッシ監督はとても好きな監督である。昨年、彼が「デイパーテッド」で初めてアカデミー賞を取ったときには、アカデミー賞嫌いの私の「かれはアカデミーを取らないほど優れた監督だ」という評価がゆらいで残念だと思ったほどだ。
「デイパーテッド」は香港映画「インファナル・アフェア」(2002年監督アンドリュー・ラウ)のリメイクであり、それでアカデミー賞というのはスコセッシほどの監督に失礼である。(「インファナル・アフェア」は暗黒映画の匂いが充満する名作であった。)
彼はロックの最盛期に青春時代をおくったこともあり、音楽関係を扱った作品も多いし、過去の作品にもストーンやディランなどの楽曲が使われている。
ボブ・ディランのドキュメンタリー「ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム」も刺激的なドキュメンタリーだった。これは過去のディランの記録映像をモンタージュして要所に現在のディランのインタビューを挿入するオーソドックスな手法ながら、編集技術の冴えで見ごたえがあった。
「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」は2006年ニューヨークでの2回にわたるライブを熟練の撮影チームがコンサートの全体像と楽屋裏を縦横に撮影したドキュメントで、音楽映画の枠を超えた普遍性を持ちえた傑作になった。
なかでも特筆すべきはミック・ジャガーとキース・リチャーズに焦点をあて、かれらの肉体のヒダまで掘り起こすかのような画面である。ミック・ジャガーの俊敏・敏捷は彼の当時63歳という年齢を考えればビックリするし、キース・リチャーズの顔に深々と刻まれた皺をみていると人生を感じ、何故か感動してしまうのである。
 音と映像の方法論を熟知した名人スコセッシが達した映像の冴えはローリング・ストーンズに距離を置いてきた人(私も・・)にも彼らのキャリアがただならぬものであることを有無を言わせずに納得させる。
 遥か昔にみた1958年ニューポート・ジャズ・フェスティバルのドキュメンタリー「真夏の夜のジャズ」( バード・スターン監督)で味わった心躍る体験以来のものだった。
とにかくスコセッシの映画には人間観察のしたたかさと、柔軟な視点が散りばめられている。そこにはシチリア系イタリア移民の家系に生まれ、人間の矛盾や不条理が引き起こす暗黒を見つめながら、人間救済の手がかりを追求してきたスコセッシ独特の複眼的視野がある。
ローリングストーンズの音楽にはある種の無頼性と混沌があるが、そこからある種のカタルシスを見出すような輝きがあり、そうした輝きがスコセッシの体質に強く共振・共鳴したのだろう。
よって音楽的感動の強烈さ、映画的興奮を再認識させた意味もあり、独断と偏見に満ちた私の今年のベスト・ワンである。

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