ウェールズの町から:《ジェレム・ジェレム便り⑥》

■2009.7.04  ウェールズの町から:《ジェレム・ジェレム便り⑥》
●ロンドンから西へ約250km、カーディフ(Cardiff)という町がある。ケルト海に通じるブリストル海峡に面した人口およそ30万人の港町で、1955年からはウェールズの首都となっている。今日はこの町から発信された「小さな情報」をご紹介しよう。
カーディフで、この6月30日<ジプシー、ロマおよびトラベラー歴史月間>という活動が始まった。元々イングランドで行われていたもので、今回ウェールズで初めて開かれるという。相互不信の壁を取り除き、ジプシーの若い世代によりよい生活の機会を提供するという目的で行われるもので、自身の多様な文化を知ると同時に定住者側にはイギリス国内で急速に増え続け、30万人にもおよぶマイノリティーについて理解を深めるよう呼びかける。
カーディフ市内には二ヶ所のジプシー、ロマ、トラベラー居住地区があり、およそ1500人が暮らしている。そして、その半数はキャラバン係留地が不足していることと子供たちの健康と福祉を理由に、定住の住まいに暮らしている、と記事は伝えている。(逆に言えば、半分は今でも移動生活を続けているということになる。)
初日に行われたイベントでは、ジプシー居住地区の子供たちによるサーカス、ストーリーテリング、ビデオショー、花細工、占い、アイルランドの伝統舞踊など様々なパフォーマンスが行われた。イングランドで活動を続け、今回カーディフでのイベントをサポートしているコーディネーター、パトリシアさんによれば、このような活動によって博物館や図書館との共同プロジェクトが増え、イングランドの学校カリキュラムにジプシーの歴史を取り込むことに成功するなどの成果があがっているという。そして記事からは、隣人としていかにジプシーの人々と付き合うかということが、今日のヨーロッパ社会において依然として大きな課題であることが伺える。
カーディフ生まれのジプシーで苦労の末ダンサー、振付師になったイサック・ブレイクさんは、現在ウェールズ国立音楽演劇大学で教師を務めているが、取材に答えて次のように語っている。「ジプシーの子ということが知れるだけで、のけものにされるのです。そして今、自分にできることとして子供たちに何かを伝えたいと思うようになりました。固定観念を取り払い、ロマの人々とロマでない人々がお互いに分かり合えるようになれるよう願っています。」
<ジェレム・ジェレム>のメールグループでは、このようなローカルな回覧板的情報が時折配信される。そのひとつひとつは小さな情報かも知れないが、ヨーロッパの至るところで行われているジプシーに関する様々な活動を見ていると、完全に分かり合えるということは容易ではないにしても、少なくともお互いが共存共生できる社会を実現しようというロマ側と非ロマ側の両方の意志は伝わってくる。(市橋雄二)

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