《ジェレム・ジェレム便り⑰》 ~多文化共生の試み-イスタンブール、路地裏の子供オーケストラ

 
イスタンブールのタルラバシュ地区では、ロマ人、クルド人、トルコ人、ラズ人(トルコ東部の黒海沿岸、グルジアとの国境をまたぐ地域に住み、グルジア語と同系統の言語を話す少数民族で、イスラム教徒が多い。この記事にあるようにイスタンブールなど大都市に出て暮らすラズ人もいる:訳注)、そしてアフリカ人のコミュニティが隣り合って暮らしている。
住民たちは市の中心部(イスタンブールの銀座とも言うべき繁華街イスティクラール通り:訳注)に隣接した地域に住んでいながら貧困状態におかれている。
 この地区の豊かさはその民族文化の多様性にある。ここでは様々な文化背景をもった人々が共に暮らしているが、共通しているのは貧困の中にあってもたくましく生きようと前向きであることだ。
 2006年、イスタンブール・ビルギ大学の関連機関である移民センターが、タルラバシュ・コミュニティ・センターを開設した。センターは異なる民族文化を持った子供とその親たちを一体感のあるコミュニティにまとめていくという難しい課題に取り組んでいる。タルラバシュ子供オーケストラはそうした活動の成功例である。
 オーケストラのメンバーの一人、ラマザン・ギュミュシュ(16才)は、このオーケストラのおかげで生活が一変したという。「僕たちが演奏すると、人々が興味をもって見てくれる。そして演奏に訪れた大学で見た光景が僕を変えたんだ。そこにいた学生たちのように僕も勉強したいと思うようになったんだ。」
 ギターとダルブカ(砂時計型の片面太鼓:訳注)を演奏するのが好きなエレン・クシュ(9才)は週のうち三日はセンターで過ごすという。「学校が終わるとすぐにここへ来るんだ。ギターが大好き。将来はギタリストになりたい。」
 8才のヘリン・スコルクートは家に帰って着替える時間を惜しんでセンターに急ぐ。オーケストラの最年少メンバーは6ヶ月前にセンターに通い始めたばかりだ。
 センターの活動は貧しい子供や女性のほか、地域に移ってきたばかりで社会に溶け込めない人々を対象にしている。センターの社会福祉専門家セレン・スンテキンは、それまでお互いに敬遠し合っていた子供たちが今では一緒にバイオリンやギターのレッスンを受けていると話す。スンテキンさんは、<タルラバシュのギターの響き>と名付けられた子供オーケストラ・プロジェクトに参加している子供たちへの好ましい効果を強調した。この活動はイスタンブール2010ヨーロッパ文化基金によってサポートされている。また、ストリートは子供が安全に時間を過ごせる所ではないことから家庭の協力も欠かせない。当初市の役人たちはわれわれのことを批判し、多くの人々が同じ目的でやってきたがうまくいった試しがないと言った。それがのちに警察官さえもがこのように言うようになったという。「もし彼らがあなたがたのことを好きでないとしたら、とっくに建物や窓に石を投げていますよ。」スンテキンさんはそう説明した。(2011年1月2日付、トルコの英字紙Today’s Zamanの記事より)(市橋雄二 2011.1.4)