式典にはベスナ・プシッチ第一副首相兼外務・欧州問題大臣、クロアチア国会議長の特別代理で副議長を務めるドラギッツァ・ズグレベッツ、クロアチア大統領の特別代理ダニツァ・ジュリチッチ・スパソビッツ、国会議員、各国大使、政府機関代表、国際団体代表、そして地方のロマ全国少数民族評議会代表および議員、ロマ市民協会やその他のロマ組織のメンバーなど多数のロマも参加した。
ロマ全国会議のベリコ・カイタジ代表は、今年はクロアチアのロマ社会にとって重要な出来事があったと述べ、ザグレブ大学の人文社会科学部に二つの新設講座が設けられ、ロマニ語と文化が教えられることになったことを明らかにした。また、クティナとダルダの二つの都市に地方政府の協力によりロマ文化センターが設立された。
カイタジ氏はスピーチの中で、第二次世界大戦中にロマが被った苦難に関する学術的な調査と、それらの情報がカリキュラムの中に取り入れられ、メディアに取り上げられることが必要だと訴えた。ロマ全国会議は、かつてのウスタシャ(訳注:第二次世界大戦中ドイツと同盟を結び大量虐殺を行った民族主義団体)のヤセノヴァッツ収容所内のロマ墓地において8月2日に追悼式を行い、犠牲者の追悼記念日にするとのことだ。
また、カイタジ氏は、「クロアチアのロマの多くにとっての最大の関心事は住居の合法化であろう。この問題の大きさに鑑み、社会的に恵まれないロマの住居の合法化のために1200〜1500万クーナ(クロアチアの通貨単位)の予算を計上するようクロアチア政府に発議した」と語った。
ベスナ・プシッチ第一副首相兼外務・欧州問題大臣は、クロアチアが2013年7月1日をもってEU(欧州連合)の正式加盟国になることに触れ、「われわれはロマ社会の持つ経験を活かせるだろう、なぜならば彼らは国家を超えた広い環境の中で長く暮らしてきたからだ」と発言した。大臣はまたロマ全国会議がクロアチア政府にとって重要で対等なパートナーであるとの認識を示した。
クロアチア共和国の少数民族評議会の代表であるアレクサンダル・トルノイアー氏は、「ロマの人々が真に理解されるために公共の場や政治に取り込まれるべきだ」と言い、
保健大臣のライコ・オストジッチ氏は、「ロマの社会にとって三つのキーワードがある。それは教育と教育と、そして教育である」と力説した。さらに、ロマの人々とその言語、習慣、文化がクロアチア社会を豊かなものにしていると指摘した。その他、クロアチア議会の副議長らの挨拶のあと、ロマの音楽楽団「トリオ・ミュリッツ」がロマの伝統歌謡を披露し、式典は閉幕した。
訳者コメント:この記事はクロアチアの多くのメディアが配信しているのだが、二つの点を指摘しておきたい。
ひとつは4月8日の記念日について。これは1971年に世界中のロマの代表がロンドンに集まって開催された第1回世界ロマ会議で定められた記念日であり、今日においてもインドを含め世界各地で祝われており、ロマにとっての重要な記念日として定着しているということが本記事からもうかがえること。
もうひとつは、クロアチアのEU加盟と本記事との関連について。式典に政府関係者が多く参列していることからもわかるように、本式典の開催と関連記事の配信はEU加盟を控えてクロアチアという国がいかに人権に配慮した政策をおこなっているかを国際的にアピールしようとする意図が読み取れる。もちろん、加盟がきっかけとなってロマを取り巻く環境が少なくとも制度上改善されるのであれば、それは悪いことではないのだが。
(市橋雄二/2013.4.20)