《ジェレム・ジェレム便り43》〜 トニー・ガトリフ監督が語るヨーロッパ・ロマの今

  • トニー・ガトリフ監督が自身の最新作『ジェロニモ〜愛と灼熱のリズム(原題:GERONIMO)』を携えて、この6月東京で開催された<フランス映画祭2014>のために団長として来日した。
    一部の映画関連のニュースサイトでティーチ・インの模様などが伝えられているが、ここではガトリフ監督がヨーロッパのメディアに対して語ったロマの現状を紹介する。
    まず、ロマの人々はなぜ今日においても厳しい現実に直面しているのか。
    貧困もあるが、ヨーロッパのロマの中でも特に旧ユーゴスラビアから移動して来た人々とルーマニアの現体制から逃れてきた人々の取り扱われ方が問題だ。今日ヨーロッパのロマは二つの脅威に直面している。ひとつはブリバシャ(Bulibasha)と呼ばれるマフィア組織のリーダーたちだ。ロマの貧困を利用して、もちろんすべてではないが、一部の人々を悪事に駆り立てている。犯罪を犯すこうした少数の者が多くの善良なロマの人々のイメージを傷つけている。一方、ヨーロッパ人もこの問題を解決できないでいる。マフィアを撲滅し偏見を取り除くことはできるはずである。1980年代、私たちは映画やコンサートを通じてこの偏見に闘いを挑んだ。ジプシーが私たちの社会に受け入れられることを願ったからだ。
    ヨーロッパ諸国はロマの社会統合のための政策に毎年多額の予算を投じているが、十分だと思うか。
     
    どのくらいの人たちがこの援助の恩恵にあずかっているかということだろう。それがまだ限られた家庭なのであれば、やるべきことは多い。私は欧州連合(EU)の政治家ではない。ただ、現実の状況をつぶさに観察しているに過ぎない。トランシルヴァニア(ハンガリー)の村に行けば、貧困は今も現実だ。この地域では人々は井戸から直接水を飲んでいて、それが理由で子供たちが病気になっている。また、マフィアが暗躍することで攻撃の対象とされることを恐れている。たとえば、携帯電話が盗まれたとなれば、これは明らかにロマのせいにされる。しかし、たとえば私がロマの居住地域で撮影をしていた時、盗みを働く者など誰もいなかった。貧困の中で必死に生きていたが、決して犯罪者集団などではなかった。
    ヨーロッパにおける極右政党の躍進を心配しているか。
    極右勢力の拡大をとても憂慮している。それはロマだけでなく、すべての人に関わる問題だ。多くの場合、これはフランスでは目に見えないが貧困の結果と言えます。フランスは自国民の世話ができない国だ。特に恵まれない境遇で周辺部に生きる人々に対して。このような状況が結果としてファシストの時代のような憎しみの連鎖を生んでいる。私はヨーロッパの緊縮財政にも反対だ。境界を設けて分断するのではなく、ともに分かち合うことのできる社会を望んでいる。極右政党は社会全体に多くの問題をもたらす分断を押し進めようとしている。
    最新作『ジェロニモ』にはトルコ系移民の18才の少年が登場する。少年は妹が古い習慣に則って結婚式をしなかったために恐ろしい決断をする。ヨーロッパはこのような因習に縛られた女性に対して何ができるか。
    ヨーロッパはまずこうした家族の名誉を理由にした犯罪にもっと注意を払うべきだ。ドイツ、スカンジナビア、フランスでは毎年多くのトルコ系の少女らが殺されている。しかし、行動するのは難しい。なぜならそれは家族の問題だからだ。私の映画の主人公は、将来に夢はなくそれが間違っているとしてもただひたすら家族のために尽くそうとする。社会や経済の厳しい状況がなければそのような恐ろしい道を選ばなかったかも知れない。
    なお、本作は今年のカンヌ国際映画祭で特別招待作品としてプレミア上映され、フランス本国では今年10月に劇場公開される予定となっている。日本での公開はまだ情報がないが、劇場で見られることを期待したい。
    (市橋雄二/2014.7.8)