映画「グレート・ビューティ 追憶のローマ」〜フェリーニの継承

  • ローマという街と、そこに生きる人々の存在を、万華鏡を見るように、次第に映画の世界に飲み込まれていくような不思議な感覚を味わう稀有の体験だった。
    かつて1作で富を得たローマ在住の初老の作家(トニ・セルビッロ)がパーティに明け暮れる退廃的な生活の中で、初恋の女性の死を知る。そこから人生を見直し、執筆活動を再開しようと決意する。
    特筆すべきはトニ・セルビッロ。脱力系のビル・マーレイを思わせる脱力風で、とぼけた表情としゃれた風情で力みや演技を感じさせない存在感がこの映画の成功の一因だろう。
    絢爛、猥雑、喧噪に満ち、めまぐるしい展開があるが、筋などは無視して映像に身を委ねているうちに、次第に朝、昼、夕闇に刻々と姿を変えていくローマの町並みに目を奪われ、そこにうごめく人間たちの感情が己のもののように身にしみてくる。そしてイタリア人がローマという街に抱く複雑な愛情に気づく。
    いうまでもなくこの映画はフェリーニの「甘い生活」(1960年)や「フェリーニのローマ」(1972年)に影響を受けているが、監督のパオロ・ソレンティーノは現代のローマの息吹を鮮やかに映像化し、そこに生きる人間像を際立たせることに成功している。
    そして何よりも美しい映像に身を委ね、絢爛豪華な映像世界はイタリア・グランド・オペラを見ているようであり、妙なことだが「歌舞伎」的な匂いも感じたのである。大仕掛けの見世物小屋を通り抜けた気分とでも言おうか。
    こうした体験は全く久しぶりのものであり、イタリア映画の伝統を改めて感じた。
    86回アカデミー賞最優秀外国映画賞をはじめ多くの賞を授与されてる。