映画「6才のボクが、大人になるまで」〜等身大のアメリカの実像

  • 12年間という年月をかけて、6才の少年が18才になるまでの人生模様を描いた異色作。
    メイソン少年(エラー・コルトレーン)はもちろん母親オリヴィア(パトリシア・アークエット)、父親(イーサン・ホーク)、姉(ローレライ・リンクレーター)など4人の俳優たちは変わること無く同じ役柄を12年間演じ続けるという驚くべき映画手法を採用した。
    毎年、或る期間、撮影のために集まるという方法で撮影は続けられたという。
    12年の間に再婚を繰り返す母親、ミュージシャンへの夢を諦めきれないで、ヒューストンで暮らす父親もやがて夢破れ、再婚して子供を得る。週末ごとにメイソンと姉に会いにくる父親。再婚相手には恵まれなくとも己のキャリアアップに邁進し、教師の職を得る努力家でもある母、オリヴィア。
    2002年から2013年までの12年間の撮影の間、アメリカが体験したイラク戦争の影響やオバマ大統領の誕生、ゲーム機ブームなどが織り込まれているが、この映画の本筋は何気ない日常性への限りない憧憬であろう。日常の中にこそ人生の真実があり、何ものにも代え難い価値があることが、淡々とした日常の描写を重ねることでじんわりと浮かび上がってくる。地道ながら説得力がある演出に好感が持てる。
    父との週末のドライブやキャンプで交わされる親子の何気ない会話の数々のシーンが素晴らしい。監督の目配りは家族を囲む周囲の人物像にも届いており、アメリカ社会の実相を浮かび上がらせる。ここには等身大のアメリカの実像が存在している。保守から革新までの曼荼羅模様のアメリカの実像が声高に主張すること無く、ぽつりと吐くセリフのひとつひとつから垣間見える優れた演出だ。
    夫婦が離婚し、それぞれが再婚し、子供をもうけ、前の子供たちとの関係性が問われる社会における家族のあり方や親と子のつながりを考えさせる映画でもある。
    年月の経過とともに大人びて変貌していくメイソン、そして母親、父親たちの年輪を示す風貌や肉体の存在感が、実人生の重みとなってドラマを越えて迫ってくる。とくにメイソン少年の風貌が年月の経過とともに思慮深くなり、優しいまなざしを深くする様子には明日のアメリカの希望を感じさせる手応えがあった。
    劇中、一貫して流れるカントリーをはじめとするポピュラー音楽が素晴らしい効果をあげている。監督リチャード・リンクレイターの代表作の一つになる傑作である。原題「boyhood」