刺激溢れる意欲作〜映画「さようなら」(深田晃司監督)

  • 映画「さようなら」は様々な刺激と新鮮さに溢れた意欲作だ。テーマ性、映画手法、アンドロイド映画等々、関心を集める要素が散りばめられている。
    舞台は放射能に侵された近未来の日本。日本の国民の受け入れを表明した海外の国々へ次々と出国していく。避難優先順位下位とされた南アフリカ出身の難民、ターニャと幼いころから病弱な彼女をサポートするアンドロイドのレオナは廃墟のような土地で最後の時を過ごす。
    劇作家・平田オリザがロボット研究の第一人者である石黒浩( 大阪大学教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長 )と共同して、人間とアンドロイドが舞台上で共演する「さようなら」を上演し話題を集めたが、深田晃司監督が映画化に挑戦した。
     
    映画の中心となるアンドロイド・レオナ役を演じるのは、石黒氏らが開発したアンドロイド、”ジェミノイドF”。バラエティー番組「マツコとマツコ」でもそのリアルな存在は広く知られるようになった。主人公・ターニャには同舞台でも同じ役を演じているブライアリー・ロング。
    放射能に汚染された死にゆく世界を、淡々と、静かなタッチで見詰め尽すような映画で、そこには告発も、メッセージ性もそぎ落とし、美しい荒涼さに溢れた画面を通して終末間際の輝きまでも垣間見える。自然光と影のコントラストが秀逸で、控えめな音楽が好ましい。
    ターニャにアンドロイドのレオナが谷川俊太郎、アルチュール・ランボオ、カール・ブッセ、若山牧水などの詩を無機質に読み続けるシーンは、レオナの無感情な表情故の味わいを生んでおり、この映画全体の主要テーマの通奏低音になっている。
    地球の運命を静かに暗示するこの映画が時代を撃つ力となりうるのかを見ていきたい。