秀逸な後半〜映画「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」

  • 有川浩原作の恋愛小説の映画化であるが、原作など読んでいないものにも、ついつい引き込まれてしまい、映画的魔法ともいうべき世界に魅了される。
    勤め先の不動産屋では理不尽な上司にどやされ、帰宅後の食事はコンビニでのカップ麺という冴えない、ちょっと孤独な一人暮らしのヒロイン・さやか(高畑充希)。ある日、アパートの前で青年(岩田剛典)がうずくまっているのに遭遇し、家に泊めてやる。半年の期間の同居人という約束での共同生活が始まるが、青年の植物へのただならぬ深い知識や山菜などを駆使しながらの料理の腕前の見事さ、毎日作ってくれる多彩な弁当の彩りなどにさやかは強く惹かれていく。
    前半は快調に二人の生活ぶりを予定調和的に描くのだが、この辺り快調なカットの積み重ねが心地よい。二人で自転車で野草や、山菜取り、花畑などへ行き、収穫したふき、フキノトウ、ノビル、つくしなどで数々の家庭の味を作り上げていく一連のシーンには年配者などは懐かしさに、胸が詰まる思いだろう。この青年がどうしてこんな知識と腕を持つのかを推測もしないままに。
    そして半年が過ぎて、青年は姿を消す。必死になり、青年を探すさやか。ここからがこの映画の真骨頂で、あたかもさやかの心情のうねりに同化・共鳴するようにカメラは動き、演出は冴え、恋愛映画としての情感も漂わせながら堂々のラストへとなだれ込んでいく。
    ついつい、さやかの心情の一途さにほだされ、いつの間にかさやかに感情移入してしまうほどの映画的興奮がある。ちょっと大げさな比較だが、成瀬巳喜男の「浮雲」、「乱れる」で感じたものと同種のものだ。
    さやか役の高畑充希は目下、朝ドラの主役で人気者だが、単なるアイドル的な女優というより、類い稀な潜在力を秘めた逸材だと思わせる存在感がある。聡明さ、ひたむきさをたたえた眼差しが力強く、伸びやかだ。監督は「トリハダ」などのホラー作品を作ってきた三木康一郎。テレビで練り上げた感性を映画の世界でも生かして、今を体現した面白い作品を期待したい。