竹原ピストル、そして映画「海炭市叙景」

  • たまたまテレビの音楽番組(「SONGS 魂の叫び 竹原ピストル遂に登場」2017・5・18 10時50分から30分)を見た。スタジオには竹原ピストルを初めて見る観客だけを入れてその反応も調べようとする演出が取られた。
    彼を初めて見た気になっていた私は徐々に何処かで見た顔だと感じていたが、彼の音楽が始まるとその力強く、絞り出し、吐き出すような歌いっぷりに惹きつけられながら、同時に、数十年前に新宿文化劇場で見た三上寛の「オートバイの失恋」を思い起こしていた。どちらもギター一本で己の思いを吐き出し、訴え、時には若者への共感を簡明ながら、諧謔に満ちた自分の言葉で歌い語っていた。それぞれの時代の閉塞状況を歌うという意味では同質のものがある。
    現実は厳しく、否定的な状況に満ちていても、いや、それだからこそ己だけのわずかな手がかりを見つけて、どこまでも前向きに生きようとする彼の音楽に今の若者たちが新鮮さと切ない衝撃を受け、勇気を得るのかもしれない。
    竹原ピストルの大写しの顔を見ているうちに彼の映画か何かを見た記憶が蘇りそうになり、調べたら、熊切和嘉監督の「海炭市叙景」に出演していたのだった。
    「海炭市叙景」は作家佐藤泰志の短編小説集にあり熊切和嘉監督により映画化された傑作であった。出演俳優も谷村美月、加瀬亮、南果歩、小林薫らの魅力的なラインアップだった。この映画については感ずるところが大いにあったので当HPの映画欄にも取り上げている。(2010・12・28付け)
    この映画に竹原ピストルは出ている。
    オムニバス風の物語の最初のエピソードの中で、造船所で働く男、颯太役で出演している。リストラされた颯太は大晦日の夜、妹の帆波(谷村美月)と年越しそばを食べ、初日の出を見るために山に登る。ロープウェイに乗る金がなく、帰りは兄は歩いて山を降りる。というような喪失感が漂う話だった。
     
    彼は俳優としては熊切和嘉のものを中心に出演しているようだ。この辺りにも彼のこだわりというか歩んできた道のりが影響しているようだ。
    この映画も救いがない世界が淡々と描かれながらも、描かれた暗い情熱に惹かれてしまう不思議な訴求力を持っていた。気味悪いほど竹原ピストルの音楽世界に通じる味わいを持つ映画だった。